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Posted on 2026年05月10日 08:30

【「野球の聖地」問題】神宮球場「解体・建て替え工事」と再開発計画書に並ぶ「ホテル・オフィス・複合棟」の異様な共存

2026年05月10日 08:30

「神宮球場を壊す必要があるのか」
 コロッセオを思わせるアーケード、夕暮れに浮かぶ照明塔、ナイター開始前のあの匂い。記憶の中の景色を思い浮かべるたび、ふとよぎる問いではないだろうか。あの景色は、できればそのまま残しておいてほしい。そう思う人は多いのではないか。

 1926年10月、神宮球場は完成した。竣工直後の10月24日には東京六大学野球のリーグ戦で使われ、戦後はプロ野球が開催されている。1964年からは国鉄スワローズ、のちのヤクルトの本拠地となり、夏になれば高校野球東東京・西東京大会の歓声が響いた。2026年は創建100年。「野球の聖地」と呼ばれて当然の歳月である。

 だが節目と並行して、解体へのカウントダウンは静かに進んでいる。事業者側の言い分は、単純な「老朽化」では片付けられない。座席や通路の狭さ、バリアフリー未対応、観客と車両の動線が分離しきれない構造、バックヤードの不足。現代の大型施設としては構造的にもうもたない、という説明である。

 それならば甲子園のように改修して使えばいいじゃないか、という声も当然ながらある。だが敷地に余裕がなく、プロ、六大学、東都、高校、社会人と稼働率は極めて高い。長期休止となれば、学生野球もプロも直撃する。

 そこでひねり出されたのが、隣の秩父宮ラグビー場と神宮球場を入れ替えながら建て替えるという奇策だった。新球場は現秩父宮の位置に整備され、2033年頃の完成が見込まれている。再開発全体の完成は2038年の予定。屋外型を維持しつつ、収容は約3万2000人に。バックネット裏にホテルを併設し、周辺の複合施設や歩行者空間と一体的に整備される計画で、完成後に旧球場を解体する流れだ。

 ここで一歩引いて、確認しておきたい事実がある。神宮球場の所有者は宗教法人「明治神宮」なのである。社と森のある内苑と、スポーツ・文化施設を集めた外苑。もとは明治天皇と昭憲皇太后を偲ぶ記念施設として、青山練兵場跡に造成された人工の庭園で、自然発生した森ではない。

球場所有者の明治神宮にとっては「稼ぎ頭」「収益構造の要」

 事業者側の説明によれば、明治神宮は宗教法人であるため、公的資金の受け入れには厳しい制約があるという。だから内苑の森や社殿の維持費は、外苑の事業収入で賄ってきた。稼ぎ頭は神宮球場であり、ここを更新しなければ、内苑・外苑を将来にわたって守っていく収益構造そのものが揺らぐ。

 一方で、反対の声も大きい。坂本龍一や村上春樹をはじめとする著名人、市民団体、専門家らから、樹木伐採や景観変化への抗議が続いた。中でも「いちょう並木が失われる」という不安は広く共有された。
 事業者側は、4列のいちょう並木を保全し、緑の総量を増やすと説明している。とはいえ、思い出の景色を残したい気持ちと、運営コストを誰が出すのかという現実は、なかなか折り合わない。

 そして気になるのは、計画書に並ぶ単語である。ホテル、オフィス、複合棟。これは聖地の再生なのか、それとも青山一等地の収益化なのか。神宮外苑再開発は、国立競技場に近い信濃町・青山周辺の都心再編の一部でもある。防災やオープンスペースという公益と、商業収益という民間の計算が、同じ図面の上に並んでいるわけだ。

 冒頭の問いに戻る。本当の論点は、古い球場を残すか壊すかではない。100年続いた外苑を誰の金で、どんな形で次の100年に渡すのか。観客席のあのざわめきを思い出すたび、この問いだけがポツリと残る。

(ケン高田)

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