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記事全文を読む→寺脇研が選ぶ今週のイチ推し!〈新しいファンにうってつけ。柳家三三が語る落語の魅力〉
「風まかせ十二カ月 柳家三三の落語つれづれ」
柳家三三・著(岩波書店/1980円)
上野の「鈴本演芸場」に「新宿末廣亭」、「浅草演芸ホール」と「池袋演芸場」。東京に4軒ある寄席が何より良いのは、上映開始や開演の時間が決まっている映画、演劇、コンサートなどと違い、いつでも入場でき、いつでも退席できるところだ。昼の部、夜の部がそれぞれ短くて3時間半、長い場合5時間近くに設定されていて、大半は昼夜入替ナシになっている。落語、漫才、紙切り、曲芸‥‥各15分程度の芸を、好きなだけ観ることができる。
その寄席に最近、単身で訪れる中高年男性の姿が目に見えて増えてきている。定年後の悠々たる趣味として、演芸の楽しさを満喫している様子がうれしい。一方でテレビ、ネットの落語番組を視聴する層も多くなっていると聞く。
そんな新しい落語ファンにうってつけの1冊であるだけでなく、落語にチラッと関心を持ち始めた皆さんにもお勧めしたいのが本書である。なにしろ著者はバリバリの現役落語家・柳家三三 。93年、高校を卒業した年に柳家小三治の弟子となって以来33年、今や実力派の真打として全国を股にかけ活躍している。
その人が、落語という芸の魅力と、それを生業とする人々が集う、業界の独特なしきたりを披露してくれるのだ。語りのプロらしく「です・ます調」の文章が、まるで高座での口演のようにわかりやすく頭に入ってくる。しかも、1月から12月まで季節に沿う形をとる親切丁寧な展開である。本のどこを開いてみても、話題に惹き込まれてしまう。
1月は正月の寄席の賑わいとともに、元日に師匠宅へ集まり挨拶する。それを皮切りに続く新年風景を描き、楽屋で働く人々へのお年玉を配る習わしを紹介しつつ、入門後に必ず経験する「前座」修業の厳しさを教えてくれる。2月は節分に豆、落語家固有の手拭いなどを客席へ向け撒く「寄席の豆まき」、入社、入学の時季である4月には前座、二ツ目、真打と進む出世システム、8月は怪談噺‥‥といった具合だ。
こんな調子であれこれ裏話を繰り出す合間には「長屋の花見」「千両みかん」「青菜」「芝浜」等々、古典落語の数々のさわりに触れてくれるとあって、至れり尽くせりなのだ。少し落語に詳しくなると気になる細部については、ちゃんと10本のコラムが用意されている。
小学6年で落語にハマり、小遣いを貯めて月1回通ったファン経験もある人だけに、観る側の心理もよく理解しているのだろう。観客が抱く興味のポイントを外さない解説になっている。客席マナーの基本まで教われるのだから有難い。
初めて寄席やホールでの落語会へ足を運ぶ場合でも、この本さえ読んでいれば戸惑うことはないはずだ。ぜひとも、一度落語を楽しんでみていただきたい。
寺脇研(てらわき・けん)52年福岡県生まれ。映画評論家、京都芸術大学客員教授。東大法学部卒。75年文部省入省。職業教育課長、広島県教育長、大臣官房審議官などを経て06年退官。「ロマンポルノの時代」「文部科学省『三流官庁』の知られざる素顔」「昭和アイドル映画の時代」、共著で「これからの日本、これからの教育」など著書多数。
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