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記事全文を読む→【世界の「最凶独裁者」列伝】ヴードゥー教を徹底悪用「呪いの恐怖」で国民から全てをむしり取った「ハイチの終身大統領」
黒いマントをまとい、大ガマを持った骸骨。それが想像の世界にある死神の姿だろう。ところが20世紀のカリブ海には、そんな格好をして国を支配する独裁者が実在した。医師でありながら、のちにハイチの終身大統領となり、国民から全てをむしり取った「パパ・ドク」こと、フランソワ・デュヴァリエである。
青年期のデュヴァリエは、1930年代にパリの黒人作家たちが起こした文化運動「ネグリチュード運動」に身を投じる文化人であり、アフリカ黒人の伝統や土着宗教であるヴードゥー教の民俗学的研究を行う、進歩的な知識人だった。しかし、その権力基盤が固まるにつれて、本性が剥き出しになっていく。
では彼がなぜ、そこまで恐れられたのか。その最大の秘密が、ヴードゥー教の徹底的な悪用にあった。というのも、ハイチの人々にとってヴードゥー教は、日々の生活や先祖の魂と深く結びついた信仰であり、デュヴァリエは国民の信仰心を、人々を震え上がらせるための「恐怖の武器」に使ったのである。
自らを「強大な黒魔術師」であると喧伝したこの男は、国民の前に姿を現す時には決まって黒い山高帽をかぶり、蝶ネクタイと黒い燕尾服を着用。これはハイチの信仰に登場する死の神「ゲーデ」の姿そのものだった。
もしこの男に逆らったら恐ろしい呪いをかけられ、理由もわからず死んでしまうかもしれない……。そんな得体の知れない恐怖心が国民の間に植え付けられていくのは、時間の問題だった。
デュヴァリエの狂気の行動は、それだけにとどまらない。黒いシャツとサングラスがトレードマークの秘密警察「トントン・マクート」を組織。政敵の首を氷漬けにして死者の魂との交話を試みたというおぞましい噂を流布し、椅子に腰かけるデュヴァリエの肩に手を置いて「私が選んだのは彼だよ」と語りかけるイエス・キリストの姿を演出する。そんなプロバガンダを展開したのである。
アメリカからの経済援助と国営企業の全利益は一族と側近の懐に
するとデュヴァリエに向かって主の祈りを捧げる信奉者が現れ、宗教と恐怖政治が癒合。国民の抵抗意欲は、この底知れぬ呪術的恐怖により、完全に削ぎ落とされていくことになる。
恐怖の内政が横行する一方で、アメリカからの経済援助や国営企業の利益、輸入による利権は全て、デュヴァリエの一族と側近らの懐に消えていった。
その結果、西半球で最も豊かな独立国のひとつだったハイチは、世界最貧国へと転落。国民は日常的な飢餓と貧困に苦しむことになる。
「私を倒せるのは神だけ」と言い放ったデュヴァリエは、国を貧困のドン底に突き落としながらも富をむさぼり続け、1971年に病気でその生涯を終えるまで、誰もその絶対的な玉座から引きずり下ろすことはできなかったのである。
「医師」という顔を見せながら裏では死神の衣をまとい、人々の信仰を利用するえげつない最凶独裁者。その素顔は前近代的な呪術と暴力が支配する、異様な狂気に満ちていたのである。
(山川敦司)
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