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「無職ランナー」藤原新でわかった実業団の弊害(1)拠点は1泊3食6000円

 今夏のロンドン五輪に向けた代表選考が各競技で活発化している。とりわけ異色の選手が台頭しているのが、男子マラソン界。何しろ話題の中心にいるのは、「無職」と「公務員」なのだから。マラソンといえば実業団――今やその常識は崩壊寸前。いや、それどころか、世界に大きく後れを取る「病巣」が潜んでいたのだ。

「レース前に見た瞬間、よくここまでしぼったな、と感心するほどの体と、今まででいちばん精悍な顔をしていました。これまでは好不調の激しい選手でしたが、実業団を飛び出し、量ではなく質の練習で自分の走りを追求してきた。今回のレースで自分の走りをつかんだようです」
 2月26日の東京マラソンで、日本人トップとなる2時間7分48秒で2位に入った藤原新(あらた)(30)をこう評するのは、プロランニングコーチでマラソン解説者の金哲彦氏だ。レース後には、昨年末から禁酒していた藤原と祝杯をあげたという。
「7分台で走りましたが、『全然、疲れていません』と話していました。25キロ過ぎに飛び出す際は一瞬、躊躇したそうですが、『40キロまではいける』と自分を信じて前に出た」(金氏)
 藤原の快挙がことさら話題になったのは、5年ぶりの2時間7分台を叩き出したから…というより、どこの実業団にも所属しない「無職ランナー」だったからだ。
「藤原のタイムは日本歴代7位です。これで3月12日発表のロンドン五輪男子マラソン代表3枠の最有力候補になりました」(スポーツ紙アマチュアスポーツ担当記者)
 実は大会前から注目を集めていたのは、「市民ランナーの星」と呼ばれる埼玉県職員の「公務員ランナー」こと、川内優輝(24)。昨年12月の福岡国際マラソンで総合3位(日本人1位)に輝き、今回の東京マラソンで代表当確を狙っていた。しかし、レース後半にまさかの失速、残念ながら14位に終わった。その川内と入れ代わるように、藤原が躍り出たのだ。前出・アマスポーツ担当記者が言う。
「藤原は所属していたJR東日本を10年3月に退社し、7月に健康器具メーカーと契約を結ぶも相次ぐ故障と活動費未払いの末、11年10月に契約解除となりました。以降はどこにも所属せず、貯金を切り崩しながら、病院に勤務する奥さんと1歳の子供を富山県に残して単身赴任。1泊3食6000円の国立科学トレーニングセンターを拠点に、練習を積んできた。無職だけにレース後、『賞金に目がくらんで必死でした』というコメントは、半分は本音でしょうね」
 ちなみにその賞金は、優勝800万円、2位400万円、3位200万円…。
 金氏は藤原のふだんの姿について、こう話す。
「一緒に飲んでいて、実に楽しい男です。お酒も大好きで、生ビールならば軽く10杯は空けますね。何より走りについて語ることが好き。『ああいう時の感覚ってこうですよね』と、2人で話し始めるとキリがなくなります」
 そんな走りの探求者の躍進が日本のマラソン界に激震をもたらしたのである。

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