芸能

百恵と淳子、頬を張られた淳子の好演技

 映画が斜陽と呼ばれた70年代でも、暗闇から見つめるスクリーンには幻想的な輝きがあった。とりわけ「女優」が放つ光は格別のものだった。山口百恵は古典的なやまとなでしこを、桜田淳子は現代的な日本女性を演じ、ともに繁忙期の興行に欠かせぬ顔となっていく──。

 映画監督・河崎義祐は、ベテラン女優の左幸子に耳打ちする。

「遠慮することなく、桜田淳子を引っぱたいてくれませんか」

 左は映画全盛期ですらどこの会社にも属さず、それでいて三國連太郎を相手に「飢餓海峡」(64年、東映)で鬼気迫る名演を見せるなど、“孤高の女優”に君臨していた。

 左に河崎が指示を出した作品とは、吉永小百合の代表作を淳子主演でリメイク宝)である。デビュー前から「小百合の再来」と騒がれた淳子にとって、吉永の特別出演を含め、真価が問われる作品だったと河崎は言う。

「これが主演映画では3本目になるけど、まだ代表作というのはなかったように思う。この制作発表で初めて顔を合わせました「若い人」(77年、東したが、デビュー5年目のアイドルと思えないほど素朴な印象がありました。芸能界特有のスレた感じがまったくない子だった」

 河崎は淳子だけでなく、後述する山口百恵や、80年代には松田聖子、近藤真彦、田原俊彦など多くのアイドル映画を手がけた。主演が若手なら、脇に実力派のベテランを置くのが河崎の主義で、淳子の母親役として左に白羽の矢を立てた。

 淳子が演じたのは、感情のままに激しく生きている江波恵子という女子高生。母親が水商売勤めのうえ、恵子が「婚外子」であったことから衝突することもしばしば。そして冒頭に書いたように、母親役の左が手をあげるシーンとなった。

「優等生の彼女は、おそらく父親にも叩かれたことはないはず。だからこそ、ビシッと頬を張られたあとのリアクションを見たかったんです。彼女の事務所も、抜き打ちにもかかわらず理解をしめしてくれました」

 河崎の目にも、痛みをこらえた淳子の演技は強い印象を残した。公開後に多くの映画評で「淳子が女優開眼!」と書かれたことは、意図したことへの最大の成果であった。

 その直後、河崎は三浦友和主演の「残照」(78年、東宝)の制作・監督を兼ねる。同時上映が淳子の「愛の嵐の中で」だったが、友和は百恵を誘って劇場で観たという。

「ぜひ、次はこの監督に」

 百恵からのラブコールを受け、河崎が百恵・友和主演の「炎の舞」(78年、東宝)を撮ることになった。コンビ9作目であったが、ドラマや歌にも多忙な百恵に許された撮影は18日間だけである。

 初めて顔を合わせた百恵は、河崎にこんな問いかけをした。

「私は“暗示”に弱いんです。だから役作りのための暗示をかけてください」

 頭で考える演技ではなく、直感的なものを欲しがっているようだ。河崎は演技指導において、こんな置き換えをした。

「今、あなたの命は目の前の短いローソクです。間もなく消えていくような状態です」

 河崎はシーンのたびに「花」や「小鳥」に例えて指導をした。意図を理解した百恵は、わずかな撮影期間ながら、急速度でヒロイン・きよのの顔に近づいていったという‥‥。

カテゴリー: 芸能   タグ: , , ,   この投稿のパーマリンク

SPECIAL

アサ芸チョイス:

    ゲームのアイテムが現実になった!? 疲労と戦うガチなビジネスマンの救世主「バイオエリクサーV3」とは?

    Sponsored

    「働き方改革」という言葉もだいぶ浸透してきた昨今だが、人手不足は一向に解消されないのが現状だ。若手をはじめ現役世代のビジネスパーソンの疲労は溜まる一方。事実、「日本の疲労状況」に関する全国10万人規模の調査では、2017年に37.4%だった…

    カテゴリー: 特集|タグ: , , , |

    藤井聡太の年間獲得賞金「1憶8000万円」は安すぎる?チェス世界チャンピオンと比べると…

    日本将棋連盟が2月5日、2023年の年間獲得賞金・対局料上位10棋士を発表。藤井聡太八冠が1億8634万円を獲得し、2年連続で1位となった。2位は渡辺明九段の4562万円、3位は永瀬拓矢九段の3509万円だった。史上最年少で前人未到の八大タ…

    カテゴリー: エンタメ|タグ: , , , |

    因縁の「王将戦」でひふみんと羽生善治の仇を取った藤井聡太の清々しい偉業

    藤井聡太八冠が東京都立川市で行われた「第73期ALSOK杯王将戦七番勝負」第4局を制し、4連勝で王将戦3連覇を果たした。これで藤井王将はプロ棋士になってから出場したタイトル戦の無敗神話を更新。大山康晴十五世名人が1963年から1966年に残…

    カテゴリー: エンタメ|タグ: , , , , , |

注目キーワード

人気記事

1
JR東日本に続いて西と四国も!「列車内映像」使用NG拡大で「バスVS鉄道旅」番組はもう作れなくなる
2
大谷翔平が「嘘つき」と断言した元通訳・水原一平の潜伏先は「ギャンブル中毒の矯正施設」か
3
【ボクシング】井上尚弥「3階級4団体統一は可能なのか」に畑山隆則の見解は「ヤバイんじゃないか」
4
リストラされる過去の遺物「芸能レポーター」井上公造が「じゅん散歩」に映り込んだのは本当に偶然なのか
5
舟木一夫「2年待ってくれと息子と約束した」/テリー伊藤対談(3)