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伝説の「平成・春のセンバツ対決」二松学舎に松山東が成し遂げた“下克上”

 春の選抜は夏の選手権と違って“21世紀枠”という特別枠で出場する高校がある。秋の地区大会の成績以外の部分が選考基準で大きなウエートを占めるため、実力的には一般枠で選ばれた高校よりも劣るという見方をされるのが当たり前。今大会も3校が選ばれたが、善戦虚しく3チームともすべて初戦で敗退してしまった。

 だが、時にはそんな21世紀枠が“ジャイアントキリング”を起こすこともある。2015年第87回選抜大会での松山東(愛媛)がまさにその代表的なチームだった。

 松山東はこの時、82年ぶり2回目の選抜出場だった。当時の校名は松山中。戦後の一時期、学制改革により県内の強豪・松山商と合併して松山東と校名を変更。この時期に夏の選手権で全国制覇を果たしたものの(50年第32回大会)、その2年後にふたたび松山商と分離。普通校の松山東として独立したが、以後は県内でも偏差値70を誇る超進学校となったこともあり、分離後の甲子園出場は春も夏も1回も果たせずにいた。

 この松山東と初戦で対戦することになったのが東京の強豪・二松学舎大付である。今年の読売巨人軍の投手陣で若手期待の左腕として初の開幕1軍を勝ち取った大江竜聖が2年生エースとして君臨。打線も切れ目のない攻撃で着実に得点を重ねていく戦い方で試合巧者ぶりを発揮していた。どうひいき目に見ても二松学舎有利は動かない。実は松山東は文豪・夏目漱石が教鞭を振るった学校であり、対する二松学舎はその漱石の少年時代の学び舎だったということから、戦前は“夏目漱石ゆかりの学校対決”という点だけで注目されていた対戦カードでもあった。

 だが、試合は圧倒的不利と見られていた松山東が先制する。4回表に2番・石山太郎が四球で出塁すると3番・酒井悠佑の当たりは内野安打に。さらに4番・米田圭佑が死球で満塁と絶好のチャンスを迎えたのだ。ここで、5番でエースの亀岡優樹が右前適時打。さらに1死満塁から7番・山田大成がスクイズを決め、2点のリードを奪ったのである。しかし、二松学舎もその裏に反撃。4番・北本一樹のソロアーチですかさず1点差に迫る。

 この展開から先に点を取ったのは松山東だった。6回表に連打で無死一、三塁とすると5番・亀岡が左中間への2点適時二塁打し、2点を追加したのだ。これで俄然有利になったと思われたが、東京の強豪はここから反撃を開始。その裏に安打と四球で一死満塁と松山東のエース・亀岡を攻めると6番・今村大輝がまず2点適時打。さらに8番を打つ大江がみずからの失点を帳消しにする適時中前打を放ち、たちまち4‐4の同点としたのである。

 だが、追いつかれても松山東ナインの心はまったく折れていなかった。直後の7回表に安打と四球を絡め、一死一、二塁のチャンスを作ると3番・酒井が左翼線に適時打を放ち、三たび勝ち越し。この貴重な1点を亀岡が必死の投球で守り切り、粘る二松学舎を振り切ったのである。

 みごとに下克上を成し遂げた松山東だったが、この番狂わせは決してフロックだとは言い切れなかった。というのも、ベンチ入りメンバーから漏れた部員がデータ班と活躍。二松学舎が出場した前年夏の甲子園大会をビデオ分析して投手の配球や打者の打球の傾向などをすべて解析していたのである。データ班は「内角への直球に自信を持っているからそれを投げさせないようにする。そして外から内に入ってくる変化球を引きつけて打つ」と指示。二松学舎のエース・大江には毎回の16三振を奪われたもののナインはそれを最後まで愚直に貫き、変化球を狙い打って大江の攻略に成功したのであった。

 松山東が陣取る三塁側アルプススタンドは実に82年越しの歓喜に沸いていた。地元・愛媛県からなんとバス66台分の大応援団が駆けつけ、見渡せばスクールカラーの緑一色。その大声援が松山東ナインを後押ししていた。まさに全校一体となってのジャイアントキリング完成であった。

(高校野球評論家・上杉純也)=文中敬称略=

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