芸能

萩本欽一「決して拳を振るわなかった大先輩 東八郎さん」(1)

 僕がコメディアンになるきっかけを作ってくれたのは、中学2年生の時の担任、杉田静枝先生でした。

 髪の毛が長くて、あだ名は「アパッチ」。クラスでは、先生が教室に入ってくる前に、あだ名を黒板に書き、入ってくる寸前、消して自分の席に戻るというイタズラがはやっていました。

 当時の僕は引っ込み思案な性格で、そういうイタズラにはまったく加わらなかったのですが、ある時、クラス一のワンパク坊主に誘われ、しかたなく黒板に先生のあだ名を書きました。

 とたんに、

「先生が来たぞ!」

 ワンパク坊主はすばやく消して席に戻ったのですが、僕のほうは泡を食って消すのも忘れ、席に戻りました。

 黒板のイタズラ書きを見た杉田先生は、

「誰なの? これを書いたのは」

 教室中、水を打ったようにシーンです。

 もう一度、先生が、

「誰なの?」

 観念した僕は、

「僕です!」

 震える声で手をあげました。

 すると、杉田先生が、

「萩本くん、男の子はこれくらいのイタズラをする勇気がないとダメなのよ」

 怒られると思っていたのにその言葉です。僕は感激し、

「よ~し、先生の授業の時は、勇気を出して手をあげよう!」

 と決めました。ただ、張り切りすぎて、答えがわかっていない時でも手をあげてしまうんです。

 杉田先生が僕を指さし、

「萩本くん!」

「ハイ、わかりません!」

 クラス中が大笑い。

 そんなことが重なるうちに、僕は人に笑われることが嫌じゃなく、逆に「人を笑わせるのって気持ちいい」と思い始めたんです。

「僕はコメディアンになる!」

 高校を卒業すると、父親の知人の紹介で、浅草の「東洋劇場」にコメディアン兼雑用係として入社します。

 当時の「東洋劇場」は、コントとストリップの二本立てでした。

 浅草の豆腐屋さんの2階に下宿し、コメディアン修業を始めた僕の面倒をいろいろと見てくれたのが、「東洋劇場」の5歳上の先輩、東八郎さん(1988年死去・享年52)です。

 若い人には、「安めぐみさんと結婚した東貴博くんのお父さん」と言ったほうがわかりやすいと思います。

 浅草の芸人の修業というのは、ものすごく厳しく、先輩に殴られたりするのはしょっちゅうでした。

 東さんは「東洋劇場」では座長クラスで、僕の師匠です。怒られたり殴られたりするのは当然です。

 でも、東さんって絶対に殴らないんです。怒らないし、すごく優しい。

 僕は一度、「どうして怒らないんですか?」と聞いたことがあります。

「オレはな、欽坊くらいの時には、毎日、先輩から殴られたり、怒られたりした。『そうやって教えるのが、浅草の伝統だ』って言われた。でもなぁ、欽坊。オレは違うと思うんだ。

 先輩に殴られながら、『オレは先輩という立場になっても、絶対に若い人たちを殴らないぞ!』、そう決心したんだよ。殴るのって嫌だし、殴られるほうも嫌だもんなぁ」

カテゴリー: 芸能   タグ: , ,   この投稿のパーマリンク

SPECIAL

アサ芸チョイス:

    「男の人からこの匂いがしたら、私、惚れちゃいます!」 弥生みづきが絶賛!ひと塗りで女性を翻弄させる魅惑の香水がヤバイ…!

    Sponsored

    4月からの新生活もスタートし、若い社員たちも入社する季節だが、「いい歳なのに長年彼女がいない」「人生で一回くらいはセカンドパートナーが欲しい」「妻に魅力を感じなくなり、娘からはそっぽを向かれている」といった事情から、キャバクラ通いやマッチン…

    カテゴリー: 特集|タグ: , , |

    塩試合を打ち砕いた!大谷の〝打った瞬間〟スーパー3ランにMLBオールスターが感謝

    日本時間の7月17日、MLBオールスター「ア・リーグ×ナ・リーグ」(グローブライフフィールド)は淡々と試合が進んでいた。NHK総合での生中継、その解説者で元MLBプレーヤーの長谷川滋利氏が「みんな早打ちですね」と、少しガッカリしているかのよ…

    カテゴリー: スポーツ|タグ: , , , |

    新井貴浩監督が絶賛!劇画のような広島カープ野球の応援歌は「走れリュウタロー」

    プロ野球12球団にはそれぞれ、ファンに親しまれるチームカラーがある。今季の広島カープのチームカラーを象徴するシーンが7月初旬、立て続けに2つあった。まずは7月4日の阪神戦だ。3-3で迎えた8回裏、カープの攻撃。この試合前までカープは3連敗で…

    カテゴリー: スポーツ|タグ: , , , |

注目キーワード

人気記事

1
岡田監督よく言った!合計43得点のオールスター戦が「史上最もつまらなかった」とファンが怒った当然の理由
2
巨人・阿部慎之助監督のエンドラン外し「捕手の勘だった」発言に江川卓が「それはない」異論のワケ
3
認知症の蛭子能収「太川陽介とバス旅」は忘れてもボートレース場で「選手解説」ギャンブラー魂
4
レジェンドOBなのになぜ!ド低迷の川崎フロンターレ「中村憲剛」新監督案をサポーターが拒絶
5
【衝撃事実】見たのは誰だ!トランプ銃撃犯は「11分間ドローンでライブ配信」していた