社会

深夜1時過ぎの階段「白いモノ」がキョトンとした目で…/二度連れ戻された「脱走ねこ」の物語(5)

 クールボーイが脱走して3日目の朝。早くに起き、すぐに玄関を出て、小動物用捕獲器を確認してみる。何の気配もないので、クールは入っていないだろうとわかった。やはり、中にはいない。ご飯を食べたのかも確認したら、踏み板のあたりに撒いたカリカリは、やや減っている気もするのだが。

 そのまま自転車でクールを探しに出かけた。ひと回りしても見つからず、手がかりなし。10時頃、いったん捕獲器を引き上げた。猫は夜行性なので、入るとしても夜に違いない。

 その日は昼、午後、夕方、夜と5、6回、界隈を探し回った。連れ合いのゆっちゃんと、いつものように飲みながら話をする。

「もう、見つからないかもしれないね」

 いなくなって最初の頃はかすかに希望のようなものがあって、「探すぞ」という気概があったのだが、空振りの連続で少々、萎え始めていた。

 それに3日目ともなると、さすがに寝不足気味。探しに出ないと…と考えるので、家での仕事も手につかない。

 クールを紹介してくれたMさんとも連夜、連絡を取り合っているが、どこにいるかわからない限り、捕獲器を置くくらいしか方法が見つからない。諦めるしかないか。そんな厭世気分になっていた。

 深夜1時過ぎ、ルーティーンのように近所を見て回った。

 付近は我が家の一列と、裏側の一列に各4軒が建っている。戸建ての住居は2軒で、我が家をA列1番目とすると2番目がアパート、3番目が事務所、4番目が空き家のようになっている住宅。真裏のB列1番目はボクシングジム、2番目が親しくしている和菓子屋、3番目がアパート、4番目が英語学習塾、という並びになっている。

 ひと通り見て回り、いったん自転車を家に置いてから、もう一度、我が家周辺を一周してみた。まずボクシングジム、和菓子屋、アパートと回って、英語学習塾から空き家に差し掛かる。学習塾は2階建てで、2階の住居には裏の外階段から行く方法もあるらしく、空き家との境は外階段、塀になっている。その外階段の3段目に白いモノが! こちらをぼんやり見ている。

「クールだ!」

 鳥肌が立った。「アッ」と叫び、でも大きな声を出したら逃げるかも、という勘がすぐに働いて、近づきたいのをこらえてジッと見つめた。クールは懐かなくて、すぐに逃げてしまう、抱っこできない猫である。小さい声で、

「クー…」

 間違いない。ライトを直接ではなく、かざすように当ててみる。左目から左耳にかけての三毛、右目の模様はクールである。

 ところが、クールはこちらを見て「誰?」という、キョトンとした眼差しだ。「それはないだろう」と憤慨する気持ちもあるが、むしろ情けない思い。あんなにいつも目をかけ、可愛がっているのに、これっぽっちもわかっていないのか…。

 再び「クー」と声をかけても、様子は変わらず。ゆっくりと、静かに近づいてみる。ちょっと気が付いたようで、目がわずかに動いた。すると警戒して階段を降り、空き家の塀との間の小さな隙間の奥に逃げて行ってしまった。

「あああ…」

 階段に近づいて隙間を見てみたが、すでにクールの姿はなかった。

 しかし、逃げたところ、隠れ場所はこれでわかった。おそらくずっとここにいたのに違いない。Mさんは「そんなに遠くには行っていない可能性が高いから、近所をしっかり調べて」と言っていたが、まさにそうだった。

 家に戻って玄関を開けるなり、ゆっちゃんに「クーがいた!」と叫んだ。

(峯田淳/コラムニスト)

カテゴリー: 社会   タグ: , ,   この投稿のパーマリンク

SPECIAL

アサ芸チョイス:

    医者のはなしがよくわかる“診察室のツボ”<マイクロスリ―プ>意識はあっても脳は強制終了の状態!?

    338173

    昼間に居眠りをしてしまう─。もしかしたら「マイクロスリープ」かもしれない。これは日中、覚醒している時に数秒間眠ってしまう現象だ。瞬間的な睡眠のため、自身に眠ったという感覚はないが、その瞬間の脳波は覚醒時とは異なり、睡眠に入っている状態である…

    カテゴリー: 社会|タグ: , , , , |

    医者のはなしがよくわかる“診察室のツボ”<紫外線対策>目の角膜にダメージ 白内障の危険も!?

    337752

    日差しにも初夏の気配を感じるこれからの季節は「紫外線」に注意が必要だ。紫外線は4月から強まり、7月にピークを迎える。野外イベントなど外出する機会も増える時期でもあるので、万全の対策を心がけたい。中年以上の男性は「日焼けした肌こそ男らしさの象…

    カテゴリー: 社会|タグ: , , , , , |

    医者のはなしがよくわかる“診察室のツボ”<四十肩・五十肩>吊り革をつかむ時に肩が上がらない‥‥

    337241

    最近、肩が上がらない─。もしかしたら「四十肩・五十肩」かもしれない。これは肩の関節痛である肩関節周囲炎で、肩を高く上げたり水平に保つことが困難になる。40代で発症すれば「四十肩」、50代で発症すれば「五十肩」と年齢によって呼び名が変わるだけ…

    カテゴリー: 社会|タグ: , , |

注目キーワード

人気記事

1
【戦慄秘話】「山一抗争」をめぐる記事で梅宮辰夫が激怒説教「こんなの、殺されちゃうよ!」
2
神宮球場「価格変動制チケット」が試合中に500円で叩き売り!1万2000円で事前購入した人の心中は…
3
巨人で埋もれる「3軍落ち」浅野翔吾と阿部監督と合わない秋広優人の先行き
4
永野芽郁の二股不倫スキャンダルが「キャスター」に及ぼす「大幅書き換え」の緊急対策
5
「島田紳助の登場」が確定的に!7月開始「ダウンタウンチャンネル」の中身