芸能
Posted on 2022年11月07日 17:58

14年ぶり復活「黒澤明賞」を世界の映画人が目指す/大高宏雄の「映画一直線」

2022年11月07日 17:58

 第35回東京国際映画祭が、11月2日に終幕した。東京の日比谷、有楽町、丸の内、銀座エリアの各映画館、会場で、内外の多くの作品が上映された。見に行った人も多かっただろうが、ここではあるひとつのことに触れるにとどめる。

 それは、14年ぶりに黒澤明賞が復活したことである。うれしい復活だ。もともとは04年から設定されたのだが、5回目を経て中断し、今年から復活した経緯を持つ。カプコンが共催会社に入った。

 かつての受賞者(04年以降)は、スティーヴン・スピルバーグ、山田洋次、市川崑、ホウ・シャオシェン、ミロス・フォアマン、ニキータ・ミハルコフ、チェン・カイコーらの監督。プロデューサーでは、デヴィッド・パットナム氏が受賞している(同時受賞含む)。

 今年は菊地凛子が素晴らしい演技を見せた「バベル」や、アカデミー賞作品賞に輝いた「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」などのアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督と、「淵に立つ」や「本気のしるし 劇場版」などの深田晃司監督が受賞した。

 黒澤明賞の趣旨は「新たな才能を世に送り出したいとの願いから、世界の映画界に貢献した映画人、そして映画界の未来を託したい映画人に贈られる」とのことである。その趣旨に沿った形で、今回の受賞が決まったのだろう。

 ただ、ここで個人的な意見を言わせてもらえば、黒澤明という名=バリューが放つ特別な重みである。とにかく重い。

 そう思える理由のひとつが、映画の「娯楽性」「大衆性」において、抜きん出た才能を発揮したことだろう。もちろん、そこにとどまることなく、芸術と娯楽双方の領域にまたがって、比類なき映画の境地、高みへと突き進んだ。

「娯楽性」「大衆性」への貢献は、先の趣旨の中にも含まれるかもしれないが、黒澤の名を冠するのなら、それを最大限に強調してもいいのではないか。そう思う。娯楽映画の分野で、すでに多大な活躍を見せてきた世界の映画人、そのただ中で悪戦苦闘している世界の映画人に対して、大いなるエールを送る。

 カンヌなど、世界の主要な映画祭の各賞は、芸術的側面に、かなり比重が置かれる。映画の娯楽性や大衆性に焦点を当てた映画賞は、大きな映画祭ではそれほど多くない。だから唯一無二、それにふさわしい冠が黒澤明賞となれば、賞は俄然、強力になると思うのだ。

 今後の東京国際映画祭にとって、黒澤明賞は大きな魅力、目玉となろう。世界の映画人から見ても、目指すべき栄誉ある賞になるのではないか。そうなってほしい。だから、その中身にもっと幅を持たせ、他の映画祭では想像もつかないような受賞者で、世界の映画人を奮い立たせる。

 個人の名前を冠した映画賞は、その当人が最も希望する内容がふさわしい。それを推し量ることは難しいが、想像はできる。黒澤明賞にエールを送る。

(大高宏雄)

映画ジャーナリスト。キネマ旬報「大高宏雄のファイト・シネクラブ」、毎日新聞「チャートの裏側」などを連載。「昭和の女優 官能・エロ映画の時代」(鹿砦社)など著書多数。1992年から毎年、独立系作品を中心とした映画賞「日本映画プロフェッショナル大賞(略称=日プロ大賞)」を主宰。2022年で31回目を迎えた。

カテゴリー:
タグ:
関連記事
SPECIAL
  • アサ芸チョイス

  • アサ芸チョイス
    社会
    2025年03月23日 05:55

    胃の調子が悪い─。食べすぎや飲みすぎ、ストレス、ウイルス感染など様々な原因が考えられるが、季節も大きく関係している。春は、朝から昼、昼から夜と1日の中の寒暖差が大きく変動するため胃腸の働きをコントロールしている自律神経のバランスが乱れやすく...

    記事全文を読む→
    社会
    2025年05月18日 05:55

    気候の変化が激しいこの時期は、「めまい」を発症しやすくなる。寒暖差だけでなく新年度で環境が変わったことにより、ストレスが増して、自律神経のバランスが乱れ、血管が収縮し、脳の血流が悪くなり、めまいを生じてしまうのだ。めまいは「目の前の景色がぐ...

    記事全文を読む→
    社会
    2025年05月25日 05:55

    急激な気温上昇で体がだるい、何となく気持ちが落ち込む─。もしかしたら「夏ウツ」かもしれない。ウツは季節を問わず1年を通して発症する。冬や春に発症する場合、過眠や過食を伴うことが多いが、夏ウツは不眠や食欲減退が現れることが特徴だ。加えて、不安...

    記事全文を読む→
    注目キーワード
    最新号 / アサヒ芸能関連リンク
    アサヒ芸能カバー画像
    週刊アサヒ芸能
    2025/7/22発売
    ■620円(税込)
    アーカイブ
    アサ芸プラス twitterへリンク