社会
Posted on 2014年10月16日 09:59

健康と仏教の関係(6)「怒り」と禅における「私」の関係

2014年10月16日 09:59

 青色LEDの発明の功績によりノーベル物理学賞に日本人3人が選ばれた。その中の1人、特許問題で所属企業と訴訟になり、絶望的な心境から日本を捨てた中村修二教授は、自らの研究の原動力をこう表現した。

「怒りだ」

 多くの自己啓発本や、心理学者たちは「怒り」について「怒りをためこまずぶちまけるべきだ」「怒りは発露すべきだ」と語る。

 しかし、多くのアメリカメディアにコメントを寄せる、アイオワ州立大学のブラッド・ブッシュマン教授は米科学誌「今日の心理学」で、こんな実験結果を発表している。

<怒りを表わすと、実際には攻撃性が増す>

 ブッシュマン教授は、被験者にサンドバッグをたたかせ、怒りを吐き出させた。しかし、被験者たちは、そうしなかった人たちより、攻撃性や残酷性を2倍も強く表わしたのだ。

 確かに「怒り」は、自分の心を支える何かにはなる。しかし、発露した「怒り」は次の「怒り」を生んでしまう。また「ノーベル賞」を誰もがとれないことは明らかだ。つまり、中村氏のように「怒り」を継続させることが有益に働くことはかなりまれなことといえる。

 だからブッシュマン教授はこうも解説する。

<あえて冷まそうとするよりも、ただ火の元を断ちなさい。10まで必要なら100まで数えれば怒りは収まるだろう>

「禅」はこれに近い考え方がある。芥川賞作家の玄侑宗久氏は自著『「いのち」のままに』で、こう解説している。

「禅では、人は生まれながらにして充分に足りた存在だと考えている。すでに仏になれる可能性(仏性)がある。「禅」の究極の目標とは人に備わった「本来の自己」を開花させることである」

「怒り」もまた、あとから「付着した私」がなすことだ。ブッシュマン氏の研究から考えれば、発露するのではなく、無意識に剥がすほうが次の怒りを呼ばないはずである。

「禅の厳しい修行は、自分を追い詰め『本来の自己』に付着した『私』を追い出し、『いのち』そのものとして世界に向き合うためのものです」(同書より)

 最新の心理学が解き明かした「怒り」のメカニズム。玄侑氏の本には「怒り」と向き合うヒントに満ちているといえよう。

カテゴリー:
タグ:
関連記事
SPECIAL
  • アサ芸チョイス

  • アサ芸チョイス
    社会
    2025年03月23日 05:55

    胃の調子が悪い─。食べすぎや飲みすぎ、ストレス、ウイルス感染など様々な原因が考えられるが、季節も大きく関係している。春は、朝から昼、昼から夜と1日の中の寒暖差が大きく変動するため胃腸の働きをコントロールしている自律神経のバランスが乱れやすく...

    記事全文を読む→
    社会
    2025年05月18日 05:55

    気候の変化が激しいこの時期は、「めまい」を発症しやすくなる。寒暖差だけでなく新年度で環境が変わったことにより、ストレスが増して、自律神経のバランスが乱れ、血管が収縮し、脳の血流が悪くなり、めまいを生じてしまうのだ。めまいは「目の前の景色がぐ...

    記事全文を読む→
    社会
    2025年05月25日 05:55

    急激な気温上昇で体がだるい、何となく気持ちが落ち込む─。もしかしたら「夏ウツ」かもしれない。ウツは季節を問わず1年を通して発症する。冬や春に発症する場合、過眠や過食を伴うことが多いが、夏ウツは不眠や食欲減退が現れることが特徴だ。加えて、不安...

    記事全文を読む→
    注目キーワード
    最新号 / アサヒ芸能関連リンク
    アサヒ芸能カバー画像
    週刊アサヒ芸能
    2025/7/22発売
    ■620円(税込)
    アーカイブ
    アサ芸プラス twitterへリンク