芸能

緊急追悼連載! 高倉健 「背中の残響」(5)“夏八木抜き”の演出を進言

20141218f2nd

男はタフでなければ生きていけない、優しくなければ生きていく資格がない

 レイモンド・チャンドラーの小説に出てくるセリフを引用し、膨大な量のCMスポットに使い、その映画は20億円以上もの配給収入を上げた。主演は高倉健、その養女役で薬師丸ひろ子がデビューした「野性の証明」(78年、角川春樹事務所)である。

 脚本は「三代目襲名」(75年、東映)や「日本任侠道 激突篇」(75年、東映)で高倉と組んだ高田宏治である。当初は別の脚本家が予定されていたが、仕上がりに不満を持った角川春樹プロデューサーにより交代。

「私が書いた『や○ざ戦争日本の首領』(77年、東映)を角川さんが観て、それで指名を受けたんだ。それまで健さんの主演作は何本か書いているけど、初めてディスカッションの場を持ったのはこの映画」

 監督は佐藤純彌だが、高田は1度、衝突している。偶然、殺戮現場に居合わせた自衛隊員役の高倉が、薬師丸の父親をオノで斬り殺す。そのシーンの前に、高倉がじっと待っている画がほしいと佐藤は要求。高田はこれを拒否した。

「佐藤監督は理詰めでくるけど、ここは一気に行ったほうがいいと言ったよ」

 さらに高倉とも意見が分かれた。映画の後半に、高倉をつけ狙う刑事役の夏八木勲(当時は夏木勲)と、薬師丸の3人で逃亡の旅を続けるのだが──、

「健さんは夏八木抜きのほうがいいんじゃないかと言うんだ。ひろ子の記憶が戻って、憎しみの目を健さんに向けている。それは2人だけで演じたほうがいいんじゃないかと」

 森村誠一の原作にはない場面だが、高田は高倉を諭す。緊迫した局面で、幼い薬師丸がしがみつくのは父ではなく、刑事のほうだ。

「そこで健さんが哀しい目をする。そのことにより、2人の愛憎が浮かび上がるから夏八木は必要なんですよと言った」

 これに高倉は「いいですね」と了承。さらに自衛隊との銃撃戦に薬師丸が「お父さん」と叫びながら飛び込んでくる場面は、脚本家に一任してほしいと念を押す。薬師丸は銃弾を浴びて絶命するが、高倉も、角川も、このシナリオには二つ返事で乗ってくれたという。

 結果的に高田がシナリオを書いた「健さん映画」はこれが最後となったが、実は幻のプランがあった。高倉を仁侠映画のスターに育てた俊藤浩滋が、その晩年、何度も高田にシナリオを要請してきた。

「健さんが引き受けるかどうかはともかく『もう1度、老いたヤ○ザの役をやらせるのが最後の夢だ』と。結局、実現しないままに俊藤さんは亡くなられたけど、その原作というのが偶然にも森村誠一さんの『人間の証明2 狙撃者の挽歌』だったんだよ」

 引退していた元ヤ○ザが少女を助けるために修羅の世界に舞い戻る。その世界観は「野性の証明」の続編のようでもある。

カテゴリー: 芸能   タグ: , , ,   この投稿のパーマリンク

SPECIAL

アサ芸チョイス:

    医者のはなしがよくわかる“診察室のツボ”<マイクロスリ―プ>意識はあっても脳は強制終了の状態!?

    338173

    昼間に居眠りをしてしまう─。もしかしたら「マイクロスリープ」かもしれない。これは日中、覚醒している時に数秒間眠ってしまう現象だ。瞬間的な睡眠のため、自身に眠ったという感覚はないが、その瞬間の脳波は覚醒時とは異なり、睡眠に入っている状態である…

    カテゴリー: 社会|タグ: , , , , |

    医者のはなしがよくわかる“診察室のツボ”<紫外線対策>目の角膜にダメージ 白内障の危険も!?

    337752

    日差しにも初夏の気配を感じるこれからの季節は「紫外線」に注意が必要だ。紫外線は4月から強まり、7月にピークを迎える。野外イベントなど外出する機会も増える時期でもあるので、万全の対策を心がけたい。中年以上の男性は「日焼けした肌こそ男らしさの象…

    カテゴリー: 社会|タグ: , , , , , |

    医者のはなしがよくわかる“診察室のツボ”<四十肩・五十肩>吊り革をつかむ時に肩が上がらない‥‥

    337241

    最近、肩が上がらない─。もしかしたら「四十肩・五十肩」かもしれない。これは肩の関節痛である肩関節周囲炎で、肩を高く上げたり水平に保つことが困難になる。40代で発症すれば「四十肩」、50代で発症すれば「五十肩」と年齢によって呼び名が変わるだけ…

    カテゴリー: 社会|タグ: , , |

注目キーワード

人気記事

1
【戦慄秘話】「山一抗争」をめぐる記事で梅宮辰夫が激怒説教「こんなの、殺されちゃうよ!」
2
神宮球場「価格変動制チケット」が試合中に500円で叩き売り!1万2000円で事前購入した人の心中は…
3
永野芽郁の二股不倫スキャンダルが「キャスター」に及ぼす「大幅書き換え」の緊急対策
4
巨人で埋もれる「3軍落ち」浅野翔吾と阿部監督と合わない秋広優人の先行き
5
「島田紳助の登場」が確定的に!7月開始「ダウンタウンチャンネル」の中身