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記事全文を読む→緊急追悼連載! 高倉健 「背中の残響」(11)「野生の証明」撮影時のある出来事
自衛隊の元特殊工作隊員・味沢岳史が高倉、その上官である皆川二等陸佐を松方が演じた。年齢でいえば役どころは逆になるが、皆川がキャリア階級であることを示唆している。
その作品は、映画界に旋風を巻き起こした角川映画の第3作「野性の証明」(78年)である。クライマックスの戦闘シーンはカリフォルニア州の広大な砂漠に、200人のエキストラを空輸して行われている。そして松方は思わぬことから災難に巻き込まれた。
「物資を運んでいたヘリコプターの操縦士が、全米で5本の指に入るアクロバット飛行の名手。それを聞いた佐藤純彌監督が、僕に『あれに乗れる?』って言うんだよ」
数々の修羅場をこなしてきた松方だが、実は高所恐怖症で「ヘリに縄ばしごでぶら下がったまま銃撃戦」という佐藤監督の思いつきには首を振れなかった。
「ところが、銃撃戦の相手である健さんが『弘樹ちゃん、やったほうがいいよ』と後押しして。そうなると断るわけにはいかないよ」
何度かヘリが横切るシーンを撮った後、かなり危険な角度の飛行を繰り返す。そして地上にいる高倉にマシンガンをブッ放すはずが、様子がおかしい。
「弘樹ちゃん、撃って!」
佐藤監督の絶叫が空しく響く。実は松方は離陸した瞬間、失神していたのだ。
「いや、それだけじゃなくて失禁もしていた。だからそれ以降、地面に穴を掘って、ローアングルで撮ってヘリ飛行に見せる撮影に切り替えてもらったよ」
高倉と松方、夏八木勲と薬師丸ひろ子で40日間も滞在したロケだったが、昨年に夏八木が、今年に高倉が他界するとは思ってもみなかっただろう‥‥。
そして時計の針を任侠全盛期の60年代に戻すと、松方は一時的に大映にレンタル移籍している。東映・岡田茂社長の指示によるものだが、それはこんな理由だった。
「お前はまだ若い。こっちは上がつかえているが、大映に行ったらすぐ主役だ」
69年のことだった。学生運動が華やかな“政治の季節”の渦中にあり、高倉の映画が絶大な支持を得ていた時だ。
こうしたヒット作に「企画」として名を連ねたのが東映の吉田達であり、高倉とは数えきれないほどの撮影に立ち会った。
「寝そべって刺青を背中に描く作業は5時間ほどかかるんだけど、1年に十何本も主演を抱えている健さんにとっては貴重な休息の時間。ただ、こっちは枕元で大変なんだよ」
寝不足のあまりに半裸のまま居眠りしたら風邪をひいてしまう。そのため吉田がそばにいて、高倉の好きな時計の情報などを聞かせては、眠らせないようにするのが一苦労だった。
それほど高倉は東映の屋台骨を支えていたが、そこまでの道のりは長かったと吉田は言う。
「デビューから97本の主演は不入りで赤字続き。いつしかまわりも『健ちゃん、今度は当ててね』が合言葉になっていたな」
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