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歴代メダリストが激励するパリ五輪「大漁メダル展望」〈レスリング・永田克彦〉女子は吉田・伊調姉妹超えの「6階級制覇」も

 まずはメダルラッシュが大いに期待できるレスリングの展望を知りたい。00年シドニー五輪の男子レスリング(グレコローマン69キロ級)銀メダリストの永田克彦氏が解説する。

─前回の東京五輪では、女子代表が4個の金メダルを獲得。それまで長らく吉田沙保里や伊調馨らが牽引してきた女子レスリング日本代表だが、今大会の女子エースは連覇を狙う50キロ級の須﨑優衣(25)だ。

永田 本当に穴がなくて、すべてを兼ね備えた選手です。金メダルは堅いと思います。須﨑選手は、国際大会ではいまだに負け知らず。ライバルになるような選手はいないと思う。ケガなどのアクシデント、トラブルがなく出場すれば、ほぼほぼ優勝するでしょう。あれだけ技術、スピードがあって、攻めのスタイルも貫くことができる。すべてが他の選手とは違いすぎます。50キロ級の選手には見えないくらい、筋力もハンパではない。特に上半身の筋肉は本当に逆三角形で、バキバキの体をしていますね。

─今回のレスリング女子日本代表メンバーは、須﨑以外の5選手が初出場。平均年齢も22歳とフレッシュな顔ぶれとなっている。

永田 女子は全6階級で金メダルを取る可能性があると思います。53キロ級の藤波朱里選手(20)も強い。ズバ抜けています。調整さえ失敗しなければ、金メダルは手堅いでしょう。彼女は中学生だった17年から現在までずっと勝ち続けていて、目下、133連勝中。若さ、勢いがあって、相手に隙があればタックルでボンボンとポイントを取り、常に攻撃して圧倒します。体格的にも恵まれていて、背丈も手足のリーチもあって、フィジカルまで強いんですから。

 それから慶應大学在学中の68キロ級・尾㟢野乃香選手(21)は、62キロ級の国内選考で敗戦。増量して68キロ級に転向して、代表の座を手に入れている。ハングリーな強いメンタルの持ち主なので、怖いものなしの初出場の勢いで表彰台のてっぺんを目指してほしいです。

─前回は金メダリストが65キロ級(フリースタイル)の乙黒拓斗のみに終わった男子代表にも期待したいが。

永田 今の実力から客観的に判断しても、男女で10個以上取る可能性が十分にあります。今回は男子にも有力候補がたくさんいますよ。

─ちなみに、男子には「グレコローマン」と「フリースタイル」の2種目があり、女子は「フリースタイル」のみ。初心者向けに、先に2種目の違いを解説してほしい。

永田 上半身だけ、腰から下は触れてはいけないという制限があるのがグレコローマン。一方のフリースタイルは、文字通り、足から上半身まで自由に攻めていい。その違いです。

 グレコローマンに出場する3選手の中では、60キロ級・文田健一郎選手(28)、67キロ級・曽我部京太郎選手(23)、77キロ級・日下尚選手(23)、みんな、候補に名前を挙げていいと思います。

 東京五輪では銀メダルだった文田選手ですが、世界選手権で2度優勝するなど、これまでに出場した国際大会でメダルを逃したことがない。今回もメダル獲得はほぼ確実で、あとは何色のメダルを獲得するかだけです。本人的にはやはり、前回が銀メダルだったという悔しさがあって、今回は雪辱に燃えていると思います。曽我部選手は23歳以下の世界選手権で銅メダルを獲得するなど、着実にステップアップして、今回、代表の座をつかみ取った。彼はスタミナとパワーが持ち味です。

─グレコローマンに出場する選手の中でも、特に注目するのは日下だとか。所属先企業の壮行会では、報道陣を前に「オリンピックでは前に出るレスリングと根性を生かして、相手を投げ倒したい」と力強く語っていました。

永田 日下選手のプレーは、すごく地味に見えるのですが、ひたむきに前に攻め続ける手堅いレスリングをします。前に出るということはすごく大事なポイントで、徹底的に前に出るスタイルを貫くことは、誰もができることではありません。日下選手はその能力が高いんです。

 足腰が強く、スタミナもある。単純に力があるからといって前に出られるものではなく、前に出るには技術も必要です。しかもそれを6分間、フルにやり切る。レスリングの基本、特にグレコローマンで必要な前に出る力、推進力という武器を持っています。腰から上しか使ってはいけないので、どうしても投げ技に注目しがちですが、根本の部分では前に出る力が大事なんですよ。日下選手は相手を圧倒する、相手に何もさせないレスリングで、負けない。だから、手堅いですよね。

─グレコローマンに続いて、男子フリースタイルの金メダル候補を挙げてほしい。

永田 最有力候補は57キロ級・樋口黎選手(28)です。テクニックを備えた頭脳派で、相手選手がどう出てくるのか、一歩先を読む力に長けています。非常にクレバーな選手で、レスリングの組み立てが本当にうまい。テクニックでロジカルに詰めていって、着実にポイントを取って、相手を圧倒する。コンディションさえ万全なら、フリースタイルの男子選手の中では一番金メダルに近いところにいると思います。リオでは銀メダル、前回の東京には最後の国内大会で負けて出場できなかった。その悔しさもあるだろうし、五輪の金メダルはまだ手にしていない。経験を積んで技術的にも体力的にもピークの今、そのビッグタイトルを手にしてほしい。

─五輪初出場となるフリースタイル65キロ級・清岡幸大郎選手(23)が、日本レスリングの〝秘密兵器〟になるかもしれないとか。

永田 清岡選手は、前回の東京五輪で金メダリストの乙黒拓斗選手に接戦の末に辛勝し、アジア予選に進出して見事に代表の座を射止めた。国際大会の経験はまだ少ないのですが、逆に相手に手の内を知られていないので、ダークホース的な存在になりそうです。他国の選手からしたらノーマークに近く、あまり警戒されていないことで、トントン拍子に勝ち進んでいく可能性は高いとみています。

 いずれにせよオリンピックは、他の国際大会とはまったく別物で、スケールが違います。その中で選手はいかに舞い上がらず、普段通りにできるかがポイントになると思います。

※本記事は2024年7月30日発売「週刊アサヒ芸能2024年8月8日号」に掲載された内容です

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