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記事全文を読む→「やっぱり映画っていいなあ」 ーフォックスキャッチャーー
── フォックスキャッチャー ──
●ストーリー 失業中の五輪金メダリストのマークはデュポン財閥の御曹子・ジョンからソウル五輪に向けたレスリングチーム結成プロジェクトに勧誘される。 監督/ベネット・ミラー 出演/スティーヴ・カレル、チャニング・テイタムほか 配給会社 ロングライド●2月14日より全国公開
五輪金メダルを狙うような超一流アスリートはどんな日常を過ごしているのだろう。大富豪のパトロンの庇護のもと、優秀なトレーナーや練習相手を全国から集めてくるのは当たり前。金に糸目をつけず専用の豪華ジムを建て、最高の食生活で日々レベルアップしているに違いない──なんてことを本気で想像していたら、マンガや映画の見すぎとバカにされるだろうか。だが、事実は小説よりも奇なり。実話をもとにした映画「フォックスキャッチャー」には、そんな冗談のような話が登場する。
実名で登場するジョンという神経質な大金持ちは、大企業「デュポングループ」の御曹子。見渡す限りの自宅の敷地にはサラブレッドが多数放され、庭(というか巨大な森)の野鳥を観察した学術本まで出版されたという、桁外れのスーパーリッチマンだ。この風変わりな男が偶然レスリングマニアだったがために、このスポーツ史上に残る突飛な事件が起きたと言ってよい。
前半はジョンが、前回のレスリング五輪金メダリストながら失業中で孤独なマーク・シュルツ選手を招き、彼を中心にソウル五輪強化プロジェクトを立ち上げる展開だ。スズメの涙ほどの講演料で食いつなぐしかなかったマークだが、ここでは広い離れの部屋をあてがわれ、隣には専用のジム、おまけに給料まで出る。まさに至れり尽くせりで、アメリカスポーツ界のサクセスストーリーをしばし観客も堪能できる。
ところがコトはそう簡単には進まない。すぐにジョンの異様なまでの能力コンプレックスと、その裏返しである過剰な愛国心が噴出して、不穏なムードが立ち上ってくる。マークは勝利へのプレッシャーや精神的束縛もエスカレートし、やがてこの閉ざされた「レスリングの理想郷」は、取り返しのつかない悲劇をもたらすことになる。
そんなわけでこの映画はここで起きたある殺人事件を題材にしているわけだが、その場面は唐突に訪れる。全編気が抜けない、これぞ一級のサスペンスだ。特筆すべきは主演2人の鬼気迫る演技。特にマーク役のチャニング・テイタムが、敗戦でキレて鏡に顔面を打ちつける場面はすごい。どうやら、この演技はアドリブで、予定はなかったのに実際に頭突きで鏡を粉々に割ってしまったという。
愛憎のボーダーラインを踏み越え、ついに殺害にまで至った彼らの演技があまりに衝撃的すぎたからだろうか。映画を見た関係者は即座にツイッターで反応し、監督の演出を感情的に非難した。
実際に起きた事件が96年と年月もたってないため、生存する関係者の反発はある意味、必至なのかもしれない。少なくともそれくらいガツンとくる映画、という点は間違いないね。
◆次回は秋本鉄次氏です
◆プロフィール 前田有一(まえだ・ゆういち) 1972年生まれ、東京都出身。映画評論家。宅建主任者、消費者問題などを経て現在の仕事につく。自身のサイトである「超映画批評」( http://maeda-y.com )では幅広いジャンルの作品を解説している。
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