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記事全文を読む→レントゲン撮影で医師が「珍しい病気ですね」/東大病院でガン治療を受けた猫①
「全健忘症という言葉をご存じですか」
現在、2匹の猫を飼っているTさんに、そう質問された。聞き慣れない言葉に首を傾げていると、
「記憶がブッ飛ぶ病気なんです。それも丸1日」
と畳みかけてくる。猫談議の中での会話だからかなり飛躍しているのだが、これだけを聞けば不思議に思う人がほとんどだろう。
Tさんは飼い猫のことが心配で、なぜか丸1日、記憶喪失になり、救急車で病院に運ばれたという。これまで経験したことも聞いたこともない全健忘症は、愛猫の深刻な病気が原因だった。
順を追って説明する。都心に住むTさんの母親は、札幌でひとり暮らしをしていた。ところが寄る年波で介護が必要になり、Tさんは呼び出されては札幌まで出かけていたのだが、いよいよ施設に入ることになったという。
気がかりなのはもちろん母親のことだが、悩みの種がもうひとつ。母親は猫を3匹飼っていたが、老描が17歳で旅立ち、残った2匹を育てながら暮らしていた。15歳のオスの小太郎と、9歳のメスのミカンだ。これをどうするか。
結局、Tさんは母親が施設に入居するタイミングで、寂しそうにしている2匹を札幌から連れて帰って来た。コロナ禍の2021年暮れのことだった。
「動物は飛行機に乗せると器物扱いになるでしょ。だから、ケージに入れて、8時間も特急と新幹線を乗り継ぎました」
Tさんは愛犬ゆずを飼っている。これに猫2匹が加わり、人と動物の賑やかな東京の暮らしが始まった。
ところが猫との同居ストレスなのか、半年後にゆずがこの世を去り、猫2匹との生活に。そしてこの春先に、さらなる異変が。ミカンが変調をきたし、病院通いが始まったのだ。Tさんが説明する。
「グーガー、グーガーと鼻を鳴らす音が聞こえたり、途切れたりするようになったんです。そのうちグーガーと鳴る音が続いたまま、咳き込むようになり、その回数が増えていった。咳き込む時は肺の奥から絞り出すようで、とても苦しそう。ベロを出しながら、軽い発作のような感じで激しくゲホッとして、やっと落ち着く。そんな感じでした。これは風邪とか普通の病気じゃないな、という予感のようなものはありました」
Tさんはかかりつけの動物病院へ走った。医師はすぐにレントゲンを撮ってくれた。告げられた結果はというと、
「猫ちゃんには珍しい病気ですね。気管虚脱です。鼻や鼻の奥が狭い猫は、空気を吸う力が強くなる。そのために、上部の気道に炎症のようなものが起きることがあるんです。ミカンちゃんはそれですね」
レントゲン画像を見ると、確かに胸に差しかかるあたりの気管が狭くなっているのがわかった。ミカンが苦しんでいる原因はこれかと、ひとまず納得することができた。
話は逸れるが、その話を聞いてギクッとしたのは筆者だった。我が家の飼い猫ガトー(写真)も、グフングフンという変な咳をする。体重10キロ超えのガトーの顔はそれなりの大きさだが、それと比較すると鼻のあたりの作りが小さい。時々むせったように、グフグフと前かがみになって咳き込むことがあるのだが、それがミカンちゃんの咳に似ている気がするのだ。
「それでどうしました?」
「先生は抗生剤と炎症止めを出してくれました」
Tさんは言われた通り、2種類の薬をミカンちゃんに飲ませ続けた。
「最初は薬が効いて、症状が目に見えて軽くなりました。これなら安心と、薬をやめてみました。すると、またすぐにぶり返して。それで慌てて薬を飲ませると、症状はやや回復するのですが、効き目が悪くなっているのが私にもわかった。それでまた、先生に相談したら…」
薬を飲ませ続けるといざという時に効かなくなるから、しばらく飲むのをやめよう、というのが医師の診断だった。じゃあ、薬を飲ませなかったらどうなるの? そんな不安を抱えながら、薬を飲ませるのをやめたら案の定、ミカンはグーグーガーガーと咳き込み、呼吸の音が前よりもひどくなったという。それが一日中、続くことも。
「ミカン、苦しい?」
見ていてかわいそうになり、いたたまれない日々が続いた。他の病院でも診てもらった方がいいかなと思っていたら、娘もそうした方がいいと言う。
Tさんはスマホで別の病院を探し、セカンドオピニオンを仰ぐことを決めた。
(峯田淳/コラムニスト)
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