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NHK大河ドラマにあって正月映画にはなかったもの/大高宏雄の「映画一直線」

 2025年の正月興行は「はたらく細胞」が頭ひとつ抜けた格好だ。1月5日時点で興収41億3000万円を記録し、50億円突破がほぼ確実となった。50億円超えが実現すれば、2000年以降の正月興行の邦画実写作品としては、3本目となる。

 昨年に何本もあったサプライズヒットの流れが今年も続いていて、嬉しい限りだ。ただ年末年始、正月興行の興収上位作品何本かを立て続けに見て、しだいに苛立ちが募ってきたのも事実だった。面白くないのだ。興奮しないのだ。

 もちろん作品の好みは人によって違うし、評価も様々だろう。当たり前だが、ひとつ決定的なことがあった。既定路線、安全路線をひたすら走っている作品が多いのである。これは邦画、洋画、はたまた実写、アニメーションの別もない。

 言うなれば、そつなく作品ができ上がっているということである。話の展開、人間模様が淡々と、なんともまっとうに進んでいて、そこから逸脱しない。だからハラハラしない。手に汗握らない。感動しない。

 昨年大ヒットした「ラストマイル」の脚本家・野木亜紀子が、朝日新聞(1月4日付朝刊)で、興味深いことを語っていた。

「今のドラマに求められがちなのは『分かりやすさとスカッと感』」

 だとした上で、

「エンターテインメントと社会性のバランスには常に悩まされます」

 まさにこの「分かりやすさとスカッと感」にからめとられているがゆえに、安全路線に走ってしまうのだろう。しかも安全路線が「スカッと感」に結び付かないこともけっこうあるから、厄介である。

 野木はそのようなことを踏まえつつ、そこに留まってはいけないとして、中身に工夫を凝らしていくことの難しさを語り、その難しさに日々挑戦している。「ラストマイル」は、その大きな成果だった。

 1月5日、NHK大河ドラマ「べらぼう」を見た。ハッとしたシーンがあった。何人かの女性の裸の死体(うつむき)が描かれたシーンだ。お尻もしっかり写っていた。大河ドラマでは初めてではないか。

 吉原で働く女郎たちの悲惨な姿の描写が必要だったのだろう。その後、蔦谷重三郎(横浜流星)が、吉原の実情を側用人の田沼意次(渡辺謙)に直接申し述べるシーンがある。裸の死体の描写があるから、陳情のシーンに切迫感がみなぎる。

 ここに「分かりやすさとスカッと感」はないが、非常に胸が締めつけられる。あとあとまで頭に残る。そこでいろいろなことを考える。これが作劇術というものである。

 残念ながら正月映画には、先のような挑戦的な描写や創意工夫あるシーンが、ほとんど見られなかった。忘却の彼方に消え去っていく作品ばかりである。映画がそんなことでいいだろうか。

「分かりやすさとスカッと感」には、明確な根拠はない。言葉に操られると、映画は膠着してしまう。今年の映画は、どこを向いていくだろうか。期待と不安が混じり合う。

(大高宏雄)

映画ジャーナリスト。キネマ旬報「大高宏雄のファイト・シネクラブ」、毎日新聞「チャートの裏側」などを連載。新著「アメリカ映画に明日はあるか」(ハモニカブックス)など著書多数。1992年から毎年、独立系作品を中心とした映画賞「日本映画プロフェッショナル大賞(略称=日プロ大賞)」を主宰。2025年に34回目を迎える。

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