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記事全文を読む→二宮清純の「“平成・令和”スポーツ名勝負」〈宇良が披露した秘技「たすき反り」〉
「宇良 VS 天風」大相撲初場所・2017年1月20日
大相撲の決まり手は82ある。勇み足、腰砕け、つき手、つきひざ、踏み出しの5つは勝負結果としては記録されるが、決まり手には認定されていない。
決まり手は、突き出しや押し出しなどの「基本技」、上手投げや下手投げなどの「投げ手」、内掛けや外掛けなどの「掛け手」、居反りや掛け反りなどの「反り手」、巻き落としやとったりなどの「捻り手」、引き落としや吊り出しなどの「特殊技」の6手に分類される。
この中で最も、見る機会が少ないのが「反り手」だ。珍手、奇手と呼んでも差しつかえあるまい。
元小結の舞の海から〝技のデパート〞の称号を引き継いだ宇良が、珍手・奇手の類の「たすき反り」を披露したのは、2017年1月20日、初場所13日目のことだ。
相撲協会の説明によると、
〈相手の差し手のひじを抱えて、その腕の下にもぐり込んで腰を落とし、一方の手で相手の足を内側から取って、たすきを掛けるようにして相手を後ろに反って倒して勝つ〉のが「たすき反り」である。
東京・両国国技館。東十両3枚目の宇良は、この日まで9勝3敗と絶好調。対する天風は西十両9枚目。この日まで8勝4敗。
身長175センチ、体重128キロの宇良に対し、天風は身長185センチ、体重202キロの巨漢。突っ張りから左四つに組み、前に出る相撲を得意にしていた。
宇良は業師である。何を仕掛けてくるか分からない。稽古場では、しばしば「反り手」を披露していた。
勝負は一瞬でついた。低い姿勢のまま飛び込んだ宇良は、相手の左わきに頭を埋め、体を反りながら右に回転させた。左を差した天風は力任せに寄っていったが、きれいに体をかわされ、土俵に横転した。
決まり手は「たすき反り」。相撲協会が決まり手を定めた1955年以降、十両以上でこの技が決まり手として記録されたのは初めてのことだった。
大相撲の歴史を調べると、1952年春場所6日目、常ノ山が大内山に、この技で勝ち名乗りを受けた記録が残っていた。
この時、常ノ山は東前頭6枚目。身長175センチ、体重98キロ。小兵ながら動きがよく、内掛けや切り返し、蹴手繰りを得意としていた。技能賞を2回(50年夏場所、53年初場所)受賞している。
対する大内山は202センチ、152キロの大男だ。最高位は大関だが、この時はまだ関脇だった。
蛇足だが、大内山は引退後、黒澤明の名作「用心棒」に出演したという記述が散見されるが、ヤクザの子分役を演じた異形の役者は元力士にして元プロレスラーの羅生門綱五郎だ。三船敏郎演じる桑畑三十郎を軽々と持ち上げ、豪快に投げ飛ばすシーンがある。
話を大内山と常ノ山の一番に戻そう。映像が残っていないため、どんなタイミングで、「たすき反り」を決めたのか定かではないが、身長差を利用して常ノ山が大内山の懐に潜り込み、大内山が前に出てくる瞬間、体を反らし、どちらかの足を持ち上げたのだろう。
ところで宇良の場合、天風の足を持ち上げてはいない。一部の専門家からは〈相手を肩に担ぎあげてから後ろに反り倒す〉撞木反りに近いのではないか、という声も出た。
いずれにしても宇良の相撲には、勝敗とは別の、もうひとつの楽しみがある。
二宮清純(にのみや・せいじゅん)1960年、愛媛県生まれ。フリーのスポーツジャーナリストとしてオリンピック、サッカーW杯、メジャーリーグ、ボクシングなど国内外で幅広い取材活動を展開。最新刊に「森保一の決める技法」。
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