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記事全文を読む→二宮清純の「“平成・令和”スポーツ名勝負」〈羽生結弦、スーパースラムの道程〉
「羽生結弦」四大陸選手権・2020年2月9日
フィギュアスケートでは、世界選手権、グランプリファイナル、四大陸(または欧州)選手権、五輪に加え、ジュニアの世界選手権、ジュニアのグランプリファイナルの6冠達成を「スーパースラム」と呼ぶ。
2020年2月、羽生結弦は男子初の「スーパースラム」を懸け、韓国・ソウルでの四大陸選手権に臨んだ。
大会を前にして、羽生は楽曲を変更した。19-20年シーズンからショートプログラム(SP)では「Otonal」を、フリースケーティングでは「Origin」を採用していたが、「憧れが強過ぎて自分のスケートにならない」という理由で、2018年平昌五輪を制した際に使った「バラード第1番」と「SEIMEI」に戻したのだ。
というのも、Otonalは08年世界選手権銅メダリストのジョニー・ウィアー(米国)、Originは06年トリノ五輪金メダリストのエフゲニー・プルシェンコ(ロシア)が使用していた曲。ともに羽生が憧れを抱いていた選手だった。
「こちらの方が自分らしく滑ることができるプログラムかな」
と羽生。迷った挙句、原点に立ち返ったのだ。
7日、木洞アイスリンク。SPで羽生は、圧巻の演技を披露した。 練習で不調だったサルコウは、きれいに着氷し4.43と高い加点を得た。続く4回転–3回転トウループのコンビネーションジャンプ、演技後半のトリプルアクセルも、満点に近い出来栄え点を獲得した。
得点は世界歴代最高(当時)の111.82。記録更新について聞かれた羽生は「112点を目指して、まだまだ点数をあげられる部分はあった」と貪欲さを見せた。
そして、こうも。
「バラード第1番は数え切れないほど滑ってきた。(滑りは)ワインやチーズのように滑れば滑るほど、時間をかければかけるほど熟成され、いろんな深みが出る」
会心の演技により、コメントにも深みが増した。
周囲が不安視したのは、SPよりもフリー。というのも、19–20年シーズンから演技時間が4分30秒から30秒短縮されており、それに従って「SEIMEI」も4分用の曲への編集を余儀なくされた。
9日、フリー本番。羽生は演技直前、リンクに穴が空いているのを発見した。それはリンクを支えるコンクリートが見えるほどの深い穴だった。
「(ジャッジに)伝えようかどうしようか‥‥」
迷った末に、羽生は報告した。整氷のあとに試合はスタートしたが、一度切れた集中力を取り戻すのは容易ではない。
冒頭の4回転ルッツではステップアウトし、氷に左手を着いた。4回転トウループでは転倒した。
それでも渾身の演技でフリーに進出した24人中トップの187.6。SPとの合計299.42で表彰台の真ん中に立った。
「滑る前に、いつもと違うことがあり、どうやって集中すればいいのかを、改めて勉強させられた」
アクシデントもスケートの一部である。予期できないことに、どう備え、どう対応するか。
スーパースラムを達成しても「勉強させられた」と語った羽生は、この時、25歳。若くして悟りの境地に達していたのか。
氷上に立つ羽生の姿が菩薩のように映った。
二宮清純(にのみや・せいじゅん)1960年、愛媛県生まれ。フリーのスポーツジャーナリストとしてオリンピック、サッカーW杯、メジャーリーグ、ボクシングなど国内外で幅広い取材活動を展開。最新刊に「森保一の決める技法」。
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