芸能
Posted on 2025年02月09日 09:55

ホントーク〈朝井リョウ×綿矢りさ〉(1)いざ出版となって怯えることもある

2025年02月09日 09:55

「生殖記」朝井リョウ/1870円・小学館

 累計60万部を突破した大ベストセラー「正欲」から3年半ぶりとなる長編小説を上梓した作家の朝井リョウ氏。これまでとは異なる意識で創作したという本作の舞台裏について、ともに文学界を牽引する綿矢りさ氏と熱く語り合った。

綿矢 初めてお会いしたのは、作家の方がたくさん集まるお花見の会ですね。

朝井 私は当時大学生で、超絶緊張していました。

綿矢 今回の本はネタバレ厳禁ということなので、本の内容を具体的にというより、私が朝井さんに聞いてみたいことをお聞きしていこうと思います。まず、この小説を書こうと思った理由を教えていただけますか?

朝井 いろんな理由が集結しているんですけど、表に出しているもので言うと、人類基準の善悪を撤廃して長い文章を書いたらどうなるのか試したかったんです。あと、村田沙耶香さんの「コンビニ人間」(文藝春秋)を読んだ時、私の中で物語のエンディングの概念がひとつ塗り替えられたというか、最終的に人類や社会の文脈に迎合したわけではないのにハッピーエンドにも読める作品があるんだ、とびっくりしたんですね。これまで、物語の途中で人類や社会の論理から登場人物が逸脱することはあっても、最終的に人類や社会側にほだされて終わるというフィクションが多かった気がしていて。人類基準に照らすと「非凡な欲求」を抱えたまま、人によっては明るくも絶望的にも捉えられる小説を書いてみたい気持ちもありました。

綿矢 確かに読み手によってハッピーエンドと捉える人もいれば、バッドエンドと感じる人もいる小説ですね。平凡ではない「非凡な要求」については、ずいぶん前から考えていたんですか?

朝井 前作の「正欲」(新潮社)も近いテーマなのですが、実は大学生の頃、当時の担当編集さんに同じ内容の小説を相談していたんです。NGでしたけど。

綿矢 それがデビューから10年以上経った21年に出版されてベストセラーになりました。映画も大ヒットだったみたいですし、先見の明があったんですね。

朝井 いえいえ、「もしかしてこういう小説も読んでもらえる?」と様子を見ている感じです。だから本を出す時は怯えています。

綿矢 それは批判に怯えるということでしょうか?

朝井 特にここ数年、小説を書いている時に一旦社会や読者の存在が消えるというか、この小説によってよくないことが起きてもそれはそれ、くらいに思ってしまっているところがあるんですけど、いざ出版となると急に怖くなるんですよね。でも、そういう作品の方が幅広い読者から熱い感想が届いたりもするので、不思議な気持ちです。

綿矢 確かにヒヤヒヤするぐらいのことを書いたほうが、読み手の反応もビビッドだったりすることがあるかもしれないです。

朝井 そうなんです。著者名を隠したいぐらいの気持ちで書いた小説のほうが、ビビッドな反応がくることが多い気がします。

ゲスト:朝井リョウ(あさい・りょう)1989年、岐阜県生まれ。09年「桐島、部活やめるってよ」で小説すばる新人賞を受賞してデビュー。13年「何者」で直木賞、「世界地図の下書き」で坪田譲治文学賞、21年「正欲」で柴田錬三郎賞を受賞。

聞き手:綿矢りさ(わたや・りさ)1984 年京都府生まれ。早稲田大学教育学部卒業。01年「インストール」で文藝賞を受賞しデビュー。04年「蹴りたい背中」で芥川賞を受賞。12年「かわいそうだね?」で大江健三郎賞、19年「生のみ生のままで」で島清恋愛文学賞を受賞。

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