社会

ホントーク〈井上薫×名越健郎〉(2)裁判官の前では暴力団員も神妙!

名越 暴力団員に判決を下すこともあったそうですね。

井上 はい。傍聴席は組員の方たちでいっぱいになりました(笑)。

名越 怖くなかったですか。

井上 裁判所は無防備なので、もし彼らが暴れたら防御の手段はありません。でも彼らは場所をわきまえているので、今まで騒ぎになった例はありませんね。

名越 それはちょっと意外でした。極めて日本的ですね。

井上 はい。暴力団員である被告人は、裁判官の前ではおとなしく、神妙にしています。この被告人が本当に犯罪に手を染めたりするのだろうか、と疑ったこともありました。

名越 本書には裁判官の月額報酬表も載っています。裁判官になりたての「判事補」が23万7700円、10年経って「判事」になると51万6000円、出世の最終段階である「高等裁判所長官」でも130〜140万円程度と、重責を担う仕事の割に低いと感じました。

井上 収入面だけ考えると、魅力があるポストではありません。

名越 旅行で海外に行く時にも、許可が必要ということですが。

井上 私が任官した頃は、最高裁長官の許可が必要でした。中には「娘がハワイで結婚式を挙げるから出席したい」と言ったらダメと言われた人もいます。以前は県境を越える時にも書面で届け出なければいけませんでした。

名越 かなり時代錯誤なシステムですね。

井上 実は最高裁を除いた下級裁判所の裁判官には、10年という任期があります。再任を申し出て最高裁に認められると、さらに10年間裁判官でいられるので、65歳の定年まで続けようと思うと、3回は再任される必要があります。

名越 もし最高裁にニラまれたら、再任されないんですか?

井上 そうですね。ですから転勤を断ることもできず、ひたすら最高裁という上しか見ない“ヒラメ裁判官”ばかりになってしまいました。普通の労働者は、不当な行為を雇用主から受けたら訴えることができますが、裁判官はできません。最高裁は、人事権者として出した処分について、今度は裁判所として裁くシステムです。僕は「自己裁判」と呼んでいますが、戦後、そういう制度になりました。最初の処分が覆る可能性はありません。

ゲスト:井上薫(いのうえ・かおる)1954年東京都生まれ。78年東京大学理学部化学科卒業、80年同大学院理学系研究科化学専門課程修士課程修了。83年司法試験合格。86年判事補任官。96年判事任官。06年判事退官。07年弁護士登録。「裁判官の横着 サボる『法の番人』たち」「『捏造』する検察 史上最悪の司法スキャンダルを読み解く」など著書多数。

聞き手:名越健郎(なごし・けんろう)拓殖大学客員教授。1953年岡山県生まれ。東京外国語大学ロシア語科卒業。時事通信社に入社。モスクワ支局長、ワシントン支局長、外信部長などを経て退職。拓殖大学海外事情研究所教授を経て現職。ロシアに精通し、ロシア政治ウオッチャーとして活躍する。著書に「独裁者プーチン」(文春新書)など。

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