魚住 古舘さんが旅で感じられた思いは、すごく共感できます。
古館 それはうれしいです。音楽は「皆に共感してほしい」という気持ちで作っていたんですが、そうした思いが届かなかったことも多かったんです。でも、この本は共感を求めずに書いたんですけど、たくさんの方が「これを読んで旅に行きます」などのメッセージを受け取ってくれて、すごく勉強になりました。
魚住 もしかしたら、山口さんは、この旅が誰かに希望を与えられるとわかったうえで、古舘さんに旅をさせたのかもしれませんね。
古館 僕もそう思います。この旅の原作者は一郎さんで、僕は主人公であり、記録係でもありました。自分の中に2人の自分を作ったことで、しんどさを乗り切れたんだと思います。
魚住 お父様の古舘伊知郎さんも心配されたでしょう?
古館 実は伝えていなかったんです。でも、僕のバンドの解散ライブに来てくれた時、姉から聞いたのか「今度、どっか行くんだって?」と聞かれて「あ、行くよ」「そうなんだ。まあ、気をつけて」という会話をしたくらい。でも、僕のインスタを見ていたのか、ガンジス川に入った直後、知らないアドレスから「大丈夫?」ってメールがきて、父からだと直感しました。「大丈夫だよ」と返信したらそれ以上は返ってこなくて、父らしいと思いましたね。
魚住 この本も、きっと読まれていますね。
古館 はい。買って読んでくれたみたいです。小さい時から父に褒められたことは、ほとんどありませんでしたけど「すごくおもしろかった」と、昔なら考えられないぐらい褒めてくれました。
魚住 この本では、古舘さんの言葉の選び方もすばらしいと思いました。きっと、お父様のDNAなんでしょうね。
古館 僕は父が書いた本を読んだことがないんですけど、ある人から「自分の情けない部分の出し方が似ている」と言われました。確かに父も、自分をかっこよく見せるのはヘタなので、似ているのかもしれませんね。
ゲスト:古館佑太郎(ふるたち・ゆうたろう)1991年、東京都出身。08年、バンド「The SALOVERS」を結成しデビュー(15年に活動停止)。17年に新たなバンド「2」を結成(24年2月に解散)。俳優としては14年、映画「日々ロック」でデビュー。以降、NHK連続テレビ小説「ひよっこ」、NHK大河ドラマ「光る君へ」などに出演。主演映画に「いちごの唄」「アイムクレイジー」などがある。
聞き手:魚住りえ(うおずみ・りえ)大阪府生まれ、広島県育ち。慶応義塾大学文学部卒。1995年、日本テレビにアナウンサーとして入社。報道、バラエティー、情報番組などで幅広く活躍。04年に独立し、フリーアナウンサーとして芸能活動をスタート。30年にわたるアナウンスメント技術を生かした「魚住式スピーチメソッド」を確立し、現在はボイス・スピーチデザイナーとしても活躍中。