障害を持つ人々の日常生活をサポートしてくれる介助動物というと、一般的に犬をイメージするはずだ。近年では電車やバス車内でも視覚障害者に寄り添う「盲導犬」や、聴覚障害者をサポートする「聴導犬」を目にする機会が増えた。
ところがイギリスには全く訓練を受けたことがない、ごく普通の「飼い猫」が、耳の不自由な飼い主のために奮闘し、大手保護団体から表彰されている。ロンドンの北東、ダービーシャー州チェスターフィールドでひとり暮らしをする難聴の女性、ジェネヴィーヴさんと暮らすオス猫「ゼビー」だ。
ジェネヴィーヴさんは基本的に、補聴器がないと音を聴き取ることができない。そんな彼女に代わって耳をそば立てているゼビーは、電話が鳴れば前足で彼女の顔をトントンと叩いて知らせ、訪問者が玄関前に来れば、彼女の足の周りをウロウロと歩き回るなどして、ジェネヴィーヴさんを常にサポート。さらに夜中の聞きなれない物音にも敏感に反応し、頭を叩いて起こすなど、異変を知らせてくれる。
このゼビーは保護施設などで介助猫として特別な訓練を受けたわけではなく、ごく普通の飼い猫としてジェネヴィーヴさんの元へやってきた。それが自然と彼女をサポートしてくれるようになったというから、不思議というほかない。
最近では耳の代わりだけでなく、ドアの郵便受けに入っている新聞をくわえて持ってきたり、スリッパを持ってきてくれるなど、日常的な手伝いもこなすようになった。
そんなゼビーがイギリス最大の保護猫団体「キャッツ・プロテクション」が開催する、人間のために奮闘し感動を与えてくれた猫を称える「ナショナル・キャット・アワード」で見事、最優秀賞の「ナショナル・キャット・オブ・ザ・イヤー」を受賞した。
授賞式でジェネヴィーヴさんは「彼は私の夜警であり、郵便配達人であり、保護者なんです」と目を細めたが、ゼビーがなぜ訓練も受けずにこのような能力を手に入れたのかは、いまだ不明。関係者の間では「もしかしたら『2人』は前世で夫婦だったのかも」との声が上がったそうだが…。
(灯倫太郎)