大阪を代表する歓楽街・北新地。政財界の要人や経済人が集い、静かで洗練された時間が流れるこの街は長年にわたり、大人の社交場として独自の気品を保ってきた。だが今、その伝統ある街に深刻な構造変化が起きている。
「とにかく人手が集まらないんです。応募すらない日も珍しくない。今いるキャストの年齢が上がり、30代後半から40代が中心になっています」
そう語るのは、北新地でラウンジを経営する女性オーナーだ。現在、北新地のクラブやラウンジでは若年女性の人材不足が深刻化しており、それに伴ってキャストの年齢層が上がっている。
かつては水商売を「職業」として選ぶ20代の若い女性が数多く集まっていたが、その流れは変わりつつある。背景には、北新地で増え続けるキャバクラ店の存在、そしてSNSの普及により台頭した「カリスマキャバ嬢」の影響があった。
InstagramやYouTubeを通じて自らをプロモーションし、フォロワーとつながりながら働くキャバクラ嬢たち。その存在は従来の「水商売」のイメージを塗り替え、仕事選びの動機そのものに変化を与えている。
「昔なら『本気で水商売をやりたい』という女性は、クラブに来てくれました。でも今はSNSで発信しながら働けるキャバクラに流れてしまう。クラブやラウンジの世界は厳しい上下関係や所作が求められるから、敬遠されがちなんです」(前出・女性オーナー)
このままの流れが続けば、北新地はキャバクラが主流となる「新しい夜の街」へと再編されていく可能性がある。もちろん、それは消費スタイルや労働観の変化に即した自然な流れでもある。一方で、長年この街を象徴してきたクラブやラウンジ文化、その中にあった「静かにもてなす美意識」が失われつつあることは事実だろう。