主婦が「今晩のおかずは何がいい?」と夫や子供に問いかける。女性が外に働きに出るのが当たり前の世の中だから、かつての専業主婦の口癖かもしれないが、飼い猫に関しては毎日でもこう聞いてみたくなる。毎日が同じものだと食べなくなるので、今日は何をあげようかと悩む日々が続く。
愛猫家として知られ、800体に及ぶ猫の遺骨とともに暮らすのは、世界的フラメンコダンサーの長嶺ヤス子さん。彼女の自宅を訪問したのは昨年暮れだった。その時に彼女がポツリと呟いた。
「猫ちゃんたちがごはんを食べなくなるのよね、飽きちゃうと。とっかえ引っかえしてあげているけど。困っちゃうわね」
何十年も多頭数を飼い続けている長嶺さんの言葉だけに、猫はやはりそうなんだと感慨深かった。
翻って我が家の3匹はどうか。ガトー、クールボーイ、そうせきには朝晩の主食として3個1パックの「アイシア」という会社の缶詰1個を、3等分して食べさせている。これは安定の一品のはずだったのだが、何種類かあるうちのとりささみ入り、しらす入りを食べなくなった。
そのうち、それ以外のまぐろやその他も結構な量を残すようになり、食品ロスがすごい。だが夏場に向けて、一定期間が過ぎたら捨てるしかない。深刻な問題だ。
「アイシア」をほぼ食べない時のお助けマンは「銀のスプーン」のまぐろやかつおの缶詰。これを毎日食べさせ、飽きられてしまった時期があるが、スポット的にあげるとよく食べる。
我が家の3匹の好き嫌いを並べてみよう。よく子猫用に売っているとろみ系は、全く受け付けない。ササミ入りの食べ物は、3匹とも苦手。ササミを茹でてパックにした「CIAO(チャオ)」の焼ささみを食べさせたが、口もつけなかった。ささみで食べるのが「チャオもちゅ~る」で、まぐろ、かつおのオーソドックスな「ちゅ~る」とともに好評だ。
カリカリのメインは「三ツ星グルメ」のお魚味クリームと「Sheba(シーバ)」の各種だが、ガトーはなぜか「Sheba」を全く食べず、そうせきは「三ツ星グルメ」を食べない。
そうせきしか食べないのは、四国の会社の「無添加減塩 かつおぶしふりかけ にぼし入り」。これは鰹節と煮干しが袋に入っているだけのものだ。封を切ってまず、煮干しの頭と内臓を取り除いて粉々に。かつおぶしも大きくて薄いものは喉に引っかかる気がするので粉々にし、両方を混ぜる。煮干しの内臓は苦いのか、取らないと食べたがらない。ガトーとクールボーイは、これはパスだ。
カリカリではモンプチの「CRISPY KISS」という、十数粒の小分けにしているバラエティーパックも好きだ。これは以前にガンで死んだジュテが、最後によく食べていた。
3匹のうち最も食欲旺盛なのはガトーだが、なぜか器に入れたものは敬遠しがちで、両手に盛って食べさせてあげる。甘えん坊というか、横着というか…。
最近、お気に入りだったのは「ドン・キホーテ」「シマホ」でも売っていたスマックという会社の、1パック3つづりのカリカリ「ミネット」。毎日食べているカリカリに飽きていたので、買ってきたらよく食べた。ところがなぜか「ドンキ」からも「シマホ」からも消えてしまった。店員に聞いても「入荷しないみたいですね」とだけ。ペットコーナーには猫も犬も興味がない店員が多そうで、飼い主がどんなに困っているか気にしていない。猫など飼ったことがない人がほとんどではないかと思う。
そこで、アマゾンで「ミネット」を注文したら、大袋と中袋のものが送られてきた。猫、とりわけ我が家の3匹は、封を開けて風味が飛んだものは食べたがらないので、それでは困る。
春先になると期待するのは、カツオの刺身だ。2、3切れを軽く炙ってあげる。ジュテはこれが大好物だった。脂がのった戻りガツオはダメで、光るように赤い初ガツオでないと食べない。飼い主と同じ趣向なのだ。焼いている時に匂いがすると、クールボーイは足元までやってくる。
試してみたいと思いながらやっていないのは、カリカリを水かぬるま湯でふやかし、柔らかくして食べさせるやり方。ただ、水につけて風味が飛んだものは食べるだろうか。
人間のみならず、猫にも発生している食品ロス問題。その対策としては主婦がやるように、1週間の献立表でも作って、飽きないように管理してみようかと思う。とにかく手がかかる猫たちだ。
(峯田淳/コラムニスト)