肺炎で亡くなった長嶋茂雄さんが巨人監督時代、一流料理店で「1円天丼」を食べたことがある。今と比べて価格が安いとはいえ、常識的には1円で天丼が出てくるはずはない。しかもその場所というのが、帝国ホテルにあったあの有名料亭「吉兆」だというから驚きだ。そのエピソードを長嶋さんの側近から聞いたという、当時の担当記者が振り返る。
「監督は東京ドームでの試合前、どこかで昼食を摂ることが多かった。そのメニューをチェックするのも、番記者の仕事でした。ある日のこと、こんな話が飛び出しました。監督付広報が『今日、監督と1円の天丼を食ったんだよ。本当は1万円。でも監督には1万円が1円。さすが吉兆はランチでもいい値段だ』と言うんですよ。監督は『1円の天丼はうまかったですね』と言ったということらしいけど」
驚くべき金銭感覚だが、とにかくカネには無頓着だったミスター。あるマスコミ関係者は、
「用事があってホテルオークラに行った時に、手ぶらだったらしいんです。しかも専属運転手は帰った後。携帯電話も持っていない。その時、監督はどうしたと思います? 『どうも、長嶋です』と言ってフロントでお金を借りて、タクシーで自宅まで帰ったという…」
人から「2円を借りた」のは、ミスターぐらいだろう。
(阿部勝彦)