さて、問題は5月21日の農水相就任後だ。進次郎氏は「コメ大臣」を自称し、「コメ以外の農水には興味がない」と言い放ち、農水省職員たちに頭痛の種をまいた。実際、農水相レクの場でも、
「コメ担当だから。言いたいことある? なければこれで!」
コメ以外の質問には触れずにレクを終了させてしまい、職員は皆、ア然。国会でも進次郎氏に向けられた質問が増えているため、職員たちは答弁書を用意して大臣レクを行うが、答弁時にはなぜか毎度の「進次郎構文」に変わってしまう。職員たちはその都度振り回されて、もうクタクタ‥‥。
6月6日に行われた衆議院の予算委員会の際、委員室の通路前には大勢の職員が待機していた。他省庁に比べて皆、げっそりして見えた。
さらに言えば、省内の各部局は慢性的な人手不足なのに、進次郎氏は「米対策集中対応チーム」を新設して「コメに人を寄せろ!」と指示して約30人を徴兵。日刊ゲンダイでは「農水省のブラック企業化」と報じていたけれど、毎晩遅くまで仕事をさせられている現状はまさにその様相。しかも次々に方針が変わるから、国会の農水政策担当も農水省内もコメ大臣に引っかき回され、疲労困こん憊ぱいなのだとか。付記すれば、徴兵された職員には水産・畜産・木材の担当が結構いて、コメとは別世界の業務だから兵力にはなっていないという残念な話もある。
進次郎氏が備蓄米の放出を加速させたことは消費者には歓迎されて、販売開始当初こそ売り切れが続出したものの、店頭在庫が山ほど残っている店舗も出ている。それでも備蓄米の放出を続けていけば、通常に収穫された新米との需給バランスが崩れる危機も出てくるはずだ。それを察してか、米農家はコメ大臣に早くも愛想をつかしているように見える。就任直後に札幌で行われた意見交換や記者会見での、米農家たちの不満げな顔が忘れられない。
ほぼ名指しで「営業利益500%増」と卸業者を非難したりするのはお門違いだし、本来ならまずは卸業者たちを集めて「どうしたら米の価格を下げられるか」の意見を求めるべきだった。だから神澤には、進次郎氏の一連の動きが7月の参議院議員選挙前の点数稼ぎにしか見えない。
爆上がりしたコメの店頭価格を下げたいのはわかるけれど、減反政策の見直しなど農家への対策とセットにすべきだし、政府が米の需給や価格に関与して、コメの供給をじゃぶじゃぶにするなんてことをしていいわけがない。もし令和7年産の新米が大量に売れ残ったらどう対応するつもり?
そんな方針で突き進んでいるから、進次郎氏は、生粋の農水族の江藤前大臣のことなどかなり煙たく思っているはず。農水族が主張する「需給バランスを考えて」というのは、農協などの関係団体からの要望を受けてのことだから。
神澤志万(かみざわ・しま):現役政策秘書。永田町歴20年以上の現役政策秘書。女性。著書に『国会女子の忖度日記 議員秘書は、今日もイバラの道をゆく』(徳間書店刊)。