西武鉄道が西武池袋線とJR武蔵野線の直通運転を検討していると発表したのは、この6月のこと。西武鉄道とJR東日本の直通は初めてのことで、沿線住民にとって便利になると、大いに期待されている。しかしその一方で、直通の意味が見出せない、との声もある。鉄道ライターが語る。
「武蔵野線から西武池袋線に乗り換えて、池袋駅を目指す利用者はそれなりにいますが、西武池袋線から武蔵野線に乗り換えて、浦和や大宮方面へと向かう人はあまり多くありません。直通したところで、利用する人がどれだけいるのか。唯一のメリットは、西武の秋津駅とJR新秋津駅の乗り換えで、両駅間の400メートルを歩かなくて済むぐらいです」
なぜ直通運転させるのか、6月24日に開催された西武ホールディングスの第20回定時株主総会で、西武鉄道の思惑が明らかになった。
株主から直通運転について質問を受けた西武鉄道の小川周一郎社長は、沿線の価値向上と利便性の向上を目指すためだと回答。所沢と浦和、大宮方面の人の移動を増やすことを視野に入れているという。この恩恵を受けるのは、埼玉のプロスポーツ球団だ。埼玉の特殊な交通事情を、地元出身のジャーナリストが説明する。
「埼玉を代表するプロスポーツ球団といえば西武ライオンズですが、さいたま市民にとっては他県のチームも同然なんです。というのも、さいたま市から所沢へ鉄道で行こうとすると、池袋を経由することになり、アクセスがよくありません。所沢に行ったことがないという人は多いですね。西武ライオンズに愛着を持ちにくい環境なんです。ですが、武蔵野線と西武池袋線が直通となればスタジアムに行きやすくなり、応援するさいたま市民が増えるかもしれません」
逆にサッカーJリーグの浦和レッズや、レッドブルが買収した大宮アルディージャを応援する所沢の人が増える可能性も。埼玉のプロスポーツ球団は、これまで以上に活気を帯びることになるかもしれない。
地域の経済や文化に影響をもたらす鉄道路線。西武鉄道とJR武蔵野線の直通運転は、大きな可能性を秘めている。
(海野久泰)