「タンスにゴン」というコマーシャルが、かつて話題になった。沢口靖子がコミカルに演じたことなどの影響も大きかった。その「タンスにゴン」と思わず口にしてしまうのが、我が家の猫の仕種。3匹いるうちの末弟「そうせき」である。
そうせきの「ゴン、ゴン」は3パターンある。どちらかというと、そうせきは筆者の連れ合いのゆっちゃんにではなく、私に懐いている。家にいる時は一日中、傍をウロチョロ。パソコンに向かっているとデスクトップの裏側を器用に歩いたり、横に寝そべったり、あるいは椅子の後方にいて、モフモフ系の座布団に丸くなり、ジッとこちらを見つめていたり。
そのうち、のっそりと立ち上がると足元にまとわりつき、頭をゴン、ゴンとぶつけてくるのだ。
別のパターンもある。ごはんの時間になると、カリカリなどが置いてある場所に一緒についてきて、足元を回りながらやたらゴン、ゴンとぶつかってくるのだ。この時はこちらも歩いているので、そうせきの足が引っかかって躓きそうになることがしばしば。「お前、またタンスにゴンか」などと、つい口に出してしまう。
3つ目はトイレだ。入ると追いかけてきて便座に座ると、足元を回る。この場合はゴン、ゴンというより、耳の辺りをスリスリすることが多い。
こうした「猫が飼い主に頭をぶつける」仕種には、いくつか理由があると言われている。飼い主への挨拶とか、マーキングとか、愛情表現とか。
この中でマーキングは、頭や耳の裏などをこすりつけ、飼い主にニオイをつけて「俺のものだ、俺様のテリトリーだ」という表現だ。これは3匹のうち、いちばん上の「ガトー」にあてはまる。時に耳裏などを頭をクネクネさせながら、押し付けてくることがある。そんな時は「僕のこと、忘れていないように」と言われているような気になる。
ところが、そうせきのゴン、ゴンはそんなヤワなものではない。突進、もっと強い言い方なら、タックルしてくる感じだ。言葉にすれば「ホラ、もっと俺にかまえよ」とか「ノンビリやってんじゃないよ、ゴツン、ゴツン」という強烈なものだ。
これは本当に飼い主を信頼して「もっと遊んでくれよ」「早く、ごはん!」という叫びにも思える。飼い主と一体になって、ジャレまくるという感じだ。挨拶というより、強烈な愛情表現だと思う。
そんな飼い主への偏愛の裏返しは、他の人への過度の警戒心ではないか。こんなに人に懐いているのに、よその人が来ると、脱兎のごとく逃げてしまう。飼い主以外はそうせきにとっては、無関心か警戒すべき存在のようだ。
もっとも、最近では階段の手すりから、玄関にいる来訪者を「家政婦は見た!」のように覗き込んでいることがある。これは飼い主と来訪者の親密度、信頼度をそうせき流に観察しているのだと思う。飼い主が信頼している人ならば、ちょっと近づいてもいいかな、ちょっかい出してみようかな、という感じだ。
ただし、大勢が集まる新年会のような時は「信用しない人が10人もいる」みたいな感じで絶対に避け、どこに隠れたのかもわからなくなる。実に面白い猫というしかない。ゴン、ゴンは飼い主の愛情と絆を確認し、よそ者と区別する、そうせき流の処世術なのだろう。
ところで、真ん中の猫「クールボーイ」はどうか。人に懐かない猫だから、もちろんゴン、ゴンはない。要するに、そうせきのように飼い主の愛情を確認する術がないことになる。その裏返しがいつもの「シャー」なのだろう。ちょっとかわいそうになる。
同じ元保護猫でも、本当に三猫三様。1匹だけでは比較対象がいないし、かなりの多頭数ともなると各々にかまっていられないし、注意深く観察するのは難しいかもしれない。3匹とか4匹、多くて5匹くらいが、猫の観察にはいいような気がする。
(峯田淳/コラムニスト)