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Posted on 2026年06月14日 10:00

「猪木VSアリ戦」50年の真実〈第1回〉(1)あの国際電話が歴史を変えた

2026年06月14日 10:00

 あの世紀の一戦から50年の節目を迎えた今、これまで多くを語ることのなかった男が、ついに真相を明かす。独占中継を行ったNET(現テレビ朝日)社員で、当日の実況を務めたアナウンサー、舟橋慶一氏だ。これまで語られてきた通説とは異なる「事実」とは─。格闘技最大の秘史、開封の時は来た!

 あの試合から半世紀が経った。

 1976年6月26日、日本武道館。プロレスラー・アントニオ猪木と、世界ヘビー級ボクシング王者モハメド・アリが対峙した「格闘技世界一決定戦」。世界8億人が衛星中継で見守ったその試合を実況したのが、当時NET(現テレビ朝日)アナウンサーだった舟橋慶一(88)である。今年2月には米寿を迎えた舟橋が、50年の沈黙を破って語り始めたのは「真の仕掛け人」の名前だ。

 長年、この試合の発端として語り継がれてきたのは、75年3月7日付サンケイスポーツに掲載された「八田一朗、アリが東洋人に挑戦を望んでいると示唆」という報道だ。舟橋はこれを否定する。

「あの記事は結果であって、端緒ではありません。試合実現の本当の推進力は、八田一朗さん、永里高平さん、三浦甲子二さんという3人の実力者に、アントニオ猪木本人が強烈な熱意で直接働きかけ続けたことにあるんです。外に出たのが3月7日というだけで、すべては水面下で始まっていました」(以下、カギカッコ内は舟橋の弁)

 75年1月20日、月曜日、昼過ぎのことだ。

「真冬でしたが、暖かい日で、大相撲初場所の開催中でした。私はたまたまNETの運動部で外電ファクシミリの前に座っていたんです。そこへ、永里高平運動部長あてに一本の国際電話が入った。電話の主は、米国視察中の日本アマレス協会会長・八田一朗さん。現地ニューヨークは午後10時過ぎという夜遅い時間ですし、わざわざ国際電話での連絡ということは、余程の事態だと永里さんも身構えた様子でした」

 八田は、日本アマレス界の父と呼ばれた人物だ。終戦後、指導者として日本レスリングを世界水準に引き上げ、東京五輪でメダルラッシュをもたらした。スパルタ指導と「プロが栄えればアマも栄える」との持論で、プロレス界にも数多の強豪を送り込んでいた。

 一方の永里は、早稲田大学レスリング部・八田門下の長男と呼ばれた猛者で、八田の推挙で開局間もないNETに入局していた。

 八田はこの電話の直前、ニューヨークでモハメド・アリと接触していた。場所は「ベニハナ・オブ・トーキョー」。日系人起業家のロッキー青木こと青木廣彰が経営する鉄板焼きレストランである。その席で、アリ側から日本での試合・興行のオファーが示唆された。八田はその情報を持ち帰るのではなく、即座に日本へ伝える必要があると判断し、ホテルに戻って夜遅くにもかかわらず、永里へ電話をかけたのである。

 電話の内容は舟橋には聞こえなかったが、受話器を置いた永里の様子は明らかに普通ではなかった。

「通話時間がかなり長く、その後、永里さんはしばらくじっと考え込んでいました。何か重大事があった。そう直感しました」

 のちの永里自身の述懐によれば、電話の内容はこうだ。

「モハメド・アリが日本の格闘家との対戦に興味を持っている」。その相手として永里が最初に思い浮かべたのは誰だったか。実は、アントニオ猪木ではなかった。

「『猪木さんを候補に』とは、まったく想定できなかったと永里さんは言っていました。彼の頭に浮かんだのは相撲取りのジェシー、高見山関だったんです」

 高見山大五郎。本名ジェシー・ジェームス・ワイラニ・クハウルア。米国ハワイ州出身で、大相撲史上初の外国人関取(関脇)として知られる巨漢力士だ。アリと対峙しても十分見栄えのする体軀と人気─永里の発想は、ある意味でごく自然なものだった。だが、その一方で、別の男が同時に動いていたのである。

福田竜一(東京新聞)

写真提供/山内猛

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