政治
Posted on 2026年07月06日 07:00

【世界の「最凶独裁者」列伝】中央アフリカの「自称イエスの13人目の弟子」皇帝ボカサが見せた「奇行のハイライトシーン」

2026年07月06日 07:00

「偉大な歴史は、犠牲なくしては創造できない。民衆は犠牲を甘んじて受けるのだ」
 そう嘯いた男がいる。かつてアフリカ大陸の中央に位置する最貧国、中央アフリカ共和国に君臨した「皇帝」ジャン=ベデル・ボカサである。13年にわたる独裁の果てに自ら皇帝を称したこの男の生涯は、まさに残虐さと滑稽さが同居する類を見ないものだった。

 フランス軍の大尉として自由フランス軍に従軍したボカサは、インドシナ戦争などで武勲を立て、軍人として華々しいキャリアを積んだ。しかし1966年にクーデターで政権を奪取すると、その歪んだ野心は制御不能に。

 そんなボカサの奇行のハイライトが、1977年12月4日に行われた「戴冠式」である。自らを「ナポレオン1世」になぞらえたボカサは2メートルの大錫杖、8000個の宝石を散りばめた王冠、真珠と水晶で飾られた礼服を身にまとい、国家予算の2倍にあたる2500万ドルという途方もない国富を投じ、狂気の祝祭を執り行った。

 式ではフランスから呼んだ200人のシェフが腕を振るったが、ノルマンディーから連れてこられた馬たちは熱帯の酷暑に耐えかね、全滅したといわれる。
 式への招待状はローマ教皇や各国の君主にも送られたが、全て欠席。それでもボカサは鷲を模した2トンの青銅製玉座に乗り、自らの「帝国」に酔いしれた。
 当時、世界で「皇帝」の称号を持つのは、日本の昭和天皇とイランのパーレビ国王だけだったが、ボカサは自分が世界で三番目の皇帝だと信じて疑わなかった。

裁判で元料理人は「政治的対立者を細切れにして夜食にした」と証言

 しかしその実態は、救いようのない独裁政治そのもの。公務員の給与から天引きして戴冠式の費用にあて、反対派は容赦なく粛清した。1979年には国中の全学生にボカサ一族の工場で作られた高額な制服着用を義務付け、これに抗議した子供たちを親衛隊が武力鎮圧。約400人が虐殺されるという痛ましい事件が勃発した。

 だがこの年、フランス軍によるクーデターで、帝政は呆気なく崩壊した。その後、ボカサは国を離れて亡命生活を続けていたが、1986年に何を思ったのか、突如として帰国。当然ながら、待ち受けていたのは逮捕と死刑判決だった。
 なお、この男には常々「人肉食」疑惑が取り沙汰されており、裁判では元料理人による「政治的対立者を細切れにして夜食にした」という戦慄の証言まで飛び出したが、真偽のほどは明らかにされていない。

 自らを「イエスの13人目の弟子」と称し、恐怖で国民を支配してきた中央アフリカの独裁者はその後に恩赦で釈放され、フランス軍の恩給で隠居生活を送ったのち、1996年に75歳で心臓発作により死去した。
 フランスの植民地支配という歪みの中で育ち、憧れのナポレオンになろうとするも、ただの道化で終わったボカサ。その生涯は、権力と欲望がいかに人間の精神を破壊し、一国を破滅の淵に追い込むかを如実に物語っている。

(山川敦司)

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