社会

秋津壽男“どっち?”の健康学「住む場所によって寿命が変わるって本当?寒さによるストレスで自ら命を絶つケースに地域差も…」

20160317yy

 春は、出会いと別れの季節です。転勤や引越しなどで、新しい土地で生活を始める方も少なくないでしょう。

 中には、リタイア後の田舎暮らしに向けて準備する人もいることでしょう。そこで、今回はこんなお題を出してみます。

「定年後の田舎暮らし。暖かい地方と寒い地方、どちらがより長生きできるか」

 寿命を考えるうえで重要なのは、年間を通じての平均気温です。人間は極端な寒暖や湿度に対してストレスを感じます。特に、寒冷地の厳しい寒さは生命にも関わります。北海道では、冬になると毎年のように、凍死のニュースが聞かれます。つまり、寒ければ寒いほど、ストレスを感じるのです。

 一方、温暖な地域では、凍死するようなリスクはありません。沖縄や九州に上陸する台風のような「天候リスク」でも、寒冷地の冬の寒さが数カ月間に及ぶのに比べて、大きな台風ですらせいぜい数日間だけで、体へのストレスはそれほど大きくありません。

 また温暖な地域では、野宿も可能なばかりか、自生する食物で自給自足の暮らしをしているケースすらあります。

 寒い地方では、そうはいかないのは言うまでもありません。冬場の食料を自力で調達せねばならず、暖を取るための灯油が切れたら家の中でも凍死してしまいます。加えて、寒冷地の冬の期間の暖房費は、暖かい地方の何倍もかかり、経済的な負担も大きくなります。

 さらに、日照時間も人間のメンタルに大きな影響を与えていると言われています。

 厚生労働省が公表している都道府県別の自殺率(人口10万人当たりの自殺者数)でも、全国ワーストの常連は、秋田県と岩手県で、いずれも冬場の日照時間が全国平均よりも短いことで知られています。

 一般的に、寒さは人間をネガティブな気持ちにさせるばかりか、気づかないうちに大きなストレスがかかっています。「寒い、ひもじい、もう死にたい」という感情の連鎖から、人間は自殺を考えてしまうのです。

 こんな話があります。自殺志願者に自殺を踏みとどまらせるために、暖かい部屋に招き「明日死んでもいいから、とりあえず食べろ」と温かい鍋を食べさせるそうです。これだけでもかなりの確率で、志願者は自殺を思いとどまるそうです。童話の「北風と太陽」ではありませんが、暖かな環境に身を置けば、自然と人間はリラックスするのでしょう。満腹で自殺を図る人がいないのも、力が湧いてくるからなのでしょう。

 こうした点を踏まえますと、健康面や経済面のみならず、精神衛生的にも長生きに適しているのは、暖かな地域だと言えます。

 沖縄には「テーゲー」という言葉があります。これは、物事について考えすぎず、ほどほどで生きていく、という意味です。琉球の民が何かにつけて「なんくるないさぁ」(どうってことないさ)と語ったり、タイ人が「マイペンライ」(何とかなるさ)と笑い合うように、あくせくせずに生きる、そんなライフスタイルと暖かい気候とは切っても切れない間柄にあると言えるでしょう。

 さらに、経済的に余裕があれば、「夏は北海道、冬は沖縄」で暮らすのが理想です。56歳でセミリタイアを果たし、季節によってオーストラリアやニュージーランド、カナダに日本と「ひまわり生活」を送ってきた大橋巨泉さんが実行しているこのような過ごし方こそ、人間にとって最高の暮らし方だと思います。

■プロフィール 秋津壽男(あきつ・としお) 1954年和歌山県生まれ。大阪大学工学部を卒業後、再び大学受験をして和歌山県立医科大学医学部に入学。卒業後、循環器内科に入局し、心臓カテーテル、ドップラー心エコーなどを学ぶ。その後、品川区戸越に秋津医院を開業。

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