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「挫折」の受け止め方 元幕内力士 清瀬海(市原孝行)

 相撲一筋に賭けた人生が26歳で突然、ブッ壊れた。幕内に上がり、複数の付け人を連れ歩いた男が“八百長力士”という不名誉なレッテルを貼られ、世間から袋叩きにあい、石もて角界を追われた。ドン底から始まった「第2の人生」‥‥。元力士の心中とは!?

応援してくれる人も消えた

 元幕内力士・清瀬海こと市原孝行(27)は、10年7月の野球賭博問題で賭博に関わったとされ、同年の名古屋場所は謹慎処分を受けた。11年3月、賭博開帳図利容疑で書類送検。当局の判断は嫌疑不十分で、不起訴処分であった。
 ところが、この判断が下される前に、次なる騒動の渦中に投げ出される。11年2月に発覚した八百長騒動である。野球賭博の捜査の過程で、押収された携帯メール。そこに八百長を疑わせる文面があり、清瀬海の名前もあったのだ。
 相撲協会は八百長に関与した19人の親方、力士に引退勧告を出す。清瀬海も11年4月4日、引退勧告を受け入れる形で相撲協会に引退届を出した。
 小学2年生から約20年間続いた相撲人生が終わった瞬間であった。
 そんな清瀬海が昨年11月、東京・錦糸町にスナック「愛」を開店した。
 威嚇するように記者をニラみつけ、近づけようとしなかった男が、接客業を「第2の人生」に選んだのは意外だった。
 それで、昨年から4~5回、そのスナックに通った。ある時、清瀬海は振り返って、しみじみと語った。「騒動の時は、外へ出られない状態で、応援してくれる人もいなくなりました。でも、私のことを心配してくれる人も少しはいたんです。『そういう人のことだけ考えよう』、『プラスのことだけ考えよう』と自分に言い聞かせましたよ」
 少なくなった後援者は清瀬海の精神状態を心配していた。
「愛知にいる母親からは、『食事はどうしているの?』とか『命だけは絶たないで』というメールをもらいました。周りからも、『ヘンなことだけは考えるなよ』と言われました」
 小さな声援は、大きな励みになったのだろう。
 引退勧告を受けた力士たちは理事長や調査委員会のメンバーの前で最後にひと言述べることが許された。「みんな5分くらいで、はやばやと引き揚げて来たんですけど、私はここぞとばかりに、30分くらい思いの丈をしゃべり続けました(笑)」
 しかし、何を主張したのかは、言いたがらない。引退の理由も同じだ。「メールはあったが、八百長はやっていない。隠すことなんて何もない」
 そう清瀬海は言うが、八百長をしていないなら、引退勧告を受け入れる必要はなかったはず。何度かそう問い返した。でも、いつも常連客が茶々を入れて、煙に巻くのだ。その中心には目を細めて笑う店主がいる。清瀬海は接客業に向いているのかもしれない。
 清瀬海は「解雇」ではなく「引退」だった。だから退職金も出た。協会も認める正式な引退ということになる。しかし、「断髪式」はあえてやらなかった。
「八百長力士が断髪したとマスコミに書かれるだけじゃないですか。それで親方にやりませんと言った。私だけじゃないですか断髪式をやってないのは」
 角界の伝統行事である「断髪式」すらないあっけない幕切れ。それでも、清瀬海はサバサバした口調でこう話すのだ。
「代わりに、両国の床屋に行ったんです。散髪後に『髪の毛どうしますか、持って帰りますか』と聞かれたんですが、『そんなもん捨ててください』と答えました。正直言って、その時までは相撲界に心残りはあったんですけど、髪を切って、短髪で髪の毛を洗ってもらった時のたまんない気持ちよさ。長髪で髪を洗う時とは全然違っていた。それで、未練もバッサリ断ち切れました」
 短髪にしたあと清瀬海が立ち直るのに、そう時間はかからなかった。半年後には、スナック経営者に転身していた。
 とはいえ、事を急いだわけではない。慎重に経営者として、採算や店のイメージを考えての決断だった。
 清瀬海が経営するスナック「愛」は雑居ビルの2階の7坪だけの小さなお店。しかも、同じ場所で以前あったスナックの店名「愛」を、そのままもらった。
「店をオープンする前には、10軒くらい物件を見て回ったんですけど、カウンターの店は嫌だった。カウンターでお客さんにゴチャゴチャやられるのは好きじゃない。自分の目がそっちへ行っちゃうので。テーブルと椅子のある空間にしたかった。従来の店名をそのまま引き継いだのは、私は愛知県出身なので、『愛』が付くからという理由と、何より新しい看板を作らなくていいという看板代の節約でした」
 現役時代は人を寄せつけないオーラを放っていた清瀬海からは想像できなかった一面である。
 現在、スナック「愛」では、女性店員を数人、雇っている。そのコたちからは「店長」と呼ばれ、慕われている。信じられないことに、恋の悩みの相談相手になることもあるという。
「私は相撲部屋では目配り、気配りできる男で通っていたんですよ(笑)」
 あながち冗談ではないのかもしれない。

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