社会

秋津壽男“どっち?”の健康学「胸の『痛み』と『苦しみ』はどちらが危険?体内発の痛みは命を脅かす可能性が大」

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 先日、50歳になる患者さんが「酒を飲んだあと、終電に乗ろうと急いで駅へ向かっていたらあまりに息苦しかった。健康に問題はないか」と心配していました。

 私からは「運動不足からくる息切れや血圧上昇で脈が速くなったかもしれないが、症状が治まらないようなら検査を受けなさい」と診断しましたが、この患者さんは症状の度合いが深刻だと感じたようで、大いに心配していました。

 このとおり、体の痛みや違和感は誰もが気になるところですが、ここで今週の問題です。

 胸が「苦しい」のと「痛い」のとでは、どちらが危険でしょうか。

 胸が苦しい場合は、狭心症のほか、ぜんそく、逆流性食道炎、慢性閉塞性肺疾患などが該当します。

 対して胸の痛みは、心筋梗塞、狭心症、大動脈破裂、大動脈解離など、いずれもポックリ逝く病気です。

 胸が苦しい場合、すぐに死に直結しないので、タクシーで病院へ行っても間に合いますが、痛い場合は今日明日にも死ぬ可能性があり、救急車で病院へ行かねばなりません。

 苦しいのも痛むのも、どちらも大変な病気ですが、死に至る病気を考えると「痛み」のほうが危険度は高くなります。

 人間の感覚は、指先は皮膚など「体の表面」は敏感ですが、実は内臓に関しては鈍感です。同じ痛みでも、その痛みがどこから来ているかは大ざっぱにしかわかりません。自分では「肺の調子が悪いようだ」と思っていても、実は心筋梗塞だったという例もあります。

 みぞおちが痛いと思っていたが肺の病気だった、というケースもあります。

「痛み」を伴う狭心症は血管の閉塞や狭搾により血流が減少するため、痛みを表現すると「胸全体が締めつけられる」ような感覚となります。心筋梗塞の場合も「胸の周辺が押しつぶされるように」、あるいは「焼け火鉢で突き刺される」ように激しく痛みます。

 どちらも胸全体が痛むため、指先で痛む個所を指すことはできません。逆に言えば、「ここが痛い」と指せるピンポイントな痛みの場合、狭心症や心筋梗塞のような心臓疾患ではありません。痛む個所が心臓だと思っていたら肋骨だった、ということすらあります。

 つまり、痛む個所を「指先で指せる場合」、命の危険はありませんが、「手のひらで指す場合」は危険性が高いわけです。脳の場合も、頭のたんこぶは指で指せますが、脳全体が痛いとなると、そうはいきません。

 このとおり、「体の中の感覚」は、実にいいかげんなのです。

 さて、体の痛みや違和感は「体から発する信号」と捉えられます。

 例えば前日に大酒を飲んで気分が悪かったり、あるいはむかつく場合、その原因は明らかですが、原因不明の痛みを感じた場合、ガンなどを見逃している危険性もあります。

 中にはまったく痛みを感じないガンもありますが、小さな痛みを見逃していることもあるため、「いつもと違う。原因がわからない」という場合、早めに検査を受けるべきです。

 年齢でいえば、30代までは病気になりにくく、ガンの芽が生えてもやっつけてしまいますが、そうした「若さの魔法」が効かなくなるのが40代です。

 40歳を過ぎて原因不明の痛みを感じたら「危険信号」と受け取り、早めに医者に診てもらいましょう。

 冒頭の症状など、20~30歳の若者には理解できないでしょうが、人間は年齢を重ねるほど「さまざまな危険信号」に敏感になるべきなのです。

■プロフィール 秋津壽男(あきつ・としお) 1954年和歌山県生まれ。大阪大学工学部を卒業後、再び大学受験をして和歌山県立医科大学医学部に入学。卒業後、循環器内科に入局し、心臓カテーテル、ドップラー心エコーなどを学ぶ。その後、品川区戸越に秋津医院を開業。

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