社会

池上彰 そうだったのか「10年後ニッポン」(後)(1)

 2号連続の特別企画、ジャーナリスト・池上彰氏が語る「10年後のニッポン」は、いよいよ日本の政治編へ突入。解散総選挙を間近に控える中、日本再興を担う新しいリーダーは生まれるのか。はたまた、我々の日常生活はどう変化するのか。ますます混迷を深める時代の金科玉条をミスターニュースがズバリ開陳する!

首相公選は画に描いたモチ

──前回は、日本の経済や技術力の将来は捨てたものではない、エネルギーも自給できる可能性があるという明るい話をうかがいました。

 そうでしたね。10年後の日本は今とはまったく違う世界が待っているはずですよ。

──そのためには強いリーダーシップが必要だと思います。最近では「首相公選制」の下で「橋下徹総理」だなんて話も取りざたされています。

 なるほど、今週は皆さんと一緒に政治の未来について考えていくことにいたしましょう。ですが、実現するかどうか以前の話として、そもそも首相公選とは国民が選挙で国家元首、つまり政治のトップを直接選ぶということですよね。海外で言えば大統領になりますが、そうすると日本の国家元首は誰だかわかりますか?

──‥‥やはり天皇では?

 そう思うでしょ。でもね、憲法には日本の国家元首は天皇だと定められてないんですね、実は。

──えぇ、それは知りませんでした。

 とはいえ、実際に日本の天皇が海外に行けばまさに国家元首としての扱いを受けることになります。反対に海外から派遣された大使が国家元首に対し、私が○×国の大使ですと挨拶するんですが、日本では天皇がこの挨拶を受ける役割を果たします。つまり海外は日本の天皇を国家元首と見ているということなんです。

──そうだったんですね。

 国民の直接選挙で選ばれた人は、海外から見れば国家元首と見なされる。そうすると、はたして国家元首は首相なのか、天皇なのかという問題が起きてくるわけなんです。となると、首相公選の実現はたいへん難しくなってくるわけです。

──つまり制度の問題なんですね。

 ええ、それに海外では1度、イスラエルが首相公選を実施したことがあるんですよ。首相は日本と同じで議会で選ばれますが、首相を国民の選挙で選ぼうということになった。ところがもともと議院内閣制ですから、議会の多数党と首相の所属する政党が違って首相が何をやろうとしても全部議会で否決されてしまった。これではダメだということで、けっきょく元に戻したんですね。

──せっかく制度を変えても、うまくいかないのでは困りますね。

 アメリカは最初から、大統領を国民が選挙で選ぶという仕組みにしていますが、実は絶対的な強い力を持っているのは議会なんです。アメリカ大統領には予算編成の権限がないのを知っていましたか?

──それは意外ですね。大統領が絶対的指導力を持っているのかと思いました。

 そう見えるでしょ。違うんですねぇ。大統領は議会に予算教書を出す、つまり、大統領としてこういう予算を作りたいと案を示すんです。アメリカでは予算編成権は議会のものですが、日本では財務省、つまり行政府である内閣が作るでしょ。それで日本が首相公選をやった場合、選ばれた首相と議会の最大多数党が違っていたら、予算がそもそも通らないですよ。

──橋下公選総理となっても、ねじれ国会ですか?

 いえいえ、ねじれどころか国が麻痺してしまいますよ。たとえ首相公選で橋下徹総理が誕生しても、総理の提案はまったくもって通らないという事態になりうるでしょ。というわけで、もちろん憲法を変えなければいけないというのはありますが、日本では首相公選制の実現は非現実的です。

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