社会

2018年がわかる「激動の核心」<社会情勢・犯罪>(1)東京五輪を利用した詐欺に注意

 ここ数年、高齢者を狙ったオレオレ詐欺が横行していたが、ここにきてさらに犯罪の手口が巧妙化しているという。東京五輪やパンダ誕生などのイベントに便乗した「新種」が、一気に増えそうな雲行きなのだ。

「あなたがお住まいの地区限定で、2020年東京五輪開会式チケットの優先販売が始まります。S席は1枚20万円で、お一人様10枚までご購入できます」

 電話口の相手はこなれた口調で、こう切り出した。オレオレ詐欺の類いかと警戒したが、相手は「オリンピック振興会の者」だという。いずれにしても20万円とは高額だ。やんわりと断り、受話器を置く。30分後、再び電話が鳴った。今度はチケット業者からだった。

「そちらの地区で、五輪開会式チケットの優先販売が行われていると聞きました。確かS席が1枚20万円だと思いますが、ご存じでしょうか? もし購入されましたら、ウチで買い取りますよ。S席なら1枚35万円で10枚まで買いますのでご検討くださいませんか」

 頭の中で即座に計算する。10枚のチケットを200万円で買って、350万円で売る。儲けは150万円。悪い話ではない。

 30分後、「オリンピック振興会」から再度、購入を勧める電話が入った。疑いの気持ちはすでに薄れている。言われるままに購入し、200万円を振り込んだ。しかし、何日たってもチケットは送られてこない。事情を知っているかもしれないチケット業者に電話をしたが、返ってくるのは「お客様がおかけになった電話番号は現在使われておりません」というアナウンスだけだった──。

 以上は、都内であった詐欺の実話。オレオレ詐欺をはじめとする特殊詐欺は、犯行にいまだ歯止めがかからぬ状態が続いている。警察庁の統計によると、昨年1~11月の特殊詐欺の認知件数は、前年同時期比30.7%増の1万5488件だった。元神奈川県警刑事で犯罪ジャーナリストの小川泰平氏が解説する。

「被害総額自体は減っているんです。警察と金融機関との協力体制が進み、銀行などで多額の現金を容易に引き出せなくなりましたから。その結果、犯人のターゲットが高齢者のタンス預金に移った。少額でもいいからとりあえず手持ちの金をだまし取る。この傾向は今年も続くと思われるので、十分な注意が必要です」

 詐欺犯罪はヤクザの世界でも「トレンド」になりつつある。昨年のヤクザの検挙状況を罪種別に見ると、恐喝の割合が減少し、ヤクザの威力を必ずしも必要としない詐欺の割合が増加しているのだ。工藤會傘下組織組員(31)らが高齢者からトラブル解決目的でキャッシュカードをだまし取った事例や、神戸山口組傘下組織幹部(70)らが、組員であることを隠して生活保護費を不正に受給した事例が典型的だ。ジャーナリストの溝口敦氏も警鐘を鳴らす。

「ここ数年で、ヤクザのシノギ(資金獲得方法)にも明らかな変化が見られます。『俺は○○組の××だ』と名乗って金品を脅し取れば罪が重くなる。その結果、恐喝が減り、これまでヤクザの美学として手を出さなかった詐欺が増えている。この傾向は今後も続くでしょう」

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