いまだ猛威がやむことのない特殊詐欺。警察庁は、中でも匿名・流動型犯罪、いわゆるトクリュウの摘発に躍起で、今年10月には全国から専従の捜査員を集めた「T3」(略称)なる新組織を立ち上げるとしている。司法の場でも「闇バイト」について続々と実刑判決。やはり「知らなかった」では済まされないのだ。
司法記者が語る。
「今年に入り、東南アジアの犯罪拠点が次々と摘発されました。これにより全国の裁判所で特殊詐欺の公判がピークを迎えています。カンボジアから複数の日本人にメールを送り、計約4000万円を騙し取った50代の被告に下されたのは懲役5年の実刑判決。当人は『詐欺とは知らなかった』と無罪を訴えていましたが、こうした主張はことごとく退けられています」
また、フィリピンを拠点に日本の高齢者から9000万円以上を騙し取っていた詐欺グループの2月の公判では、未遂を含めた5人に懲役5年以上の有罪判決が下された。
だが、これらは逮捕逃れで海外にいる、いわば“川上”。何の気なしに詐欺に加担してしまい、かつ最も捕まりやすいのが“川下”の受け子・出し子たちだ。
「こちらもだいたいは3年の実刑で、執行猶予が付くかどうか」と語るのは、裁判ウオッチャーとして有名な阿曽山大噴火氏。同氏によれば、なかなかにしてトホホながら、重い判断が下ったケースも多いという。
「ルフィー一味だった26歳の男性は、最初はリゾートバイトだと思って応募。パスポートを取り上げられてしまい、泣く泣く受け子・出し子の募集係をした結果、お縄になってしまうハメに。フィリピンでちゃっかり恋人まで作っていたという脱力ぶりですが、グループでの詐欺の件数が多かったため8年の実刑が求刑されています。今年3月に懲役3年執行猶予5年の判決が下りた21歳男性は、60代男性から3000万円を騙し取ろうとしたところを警察官に待ち構えられて逮捕。裁判官にいくらの報酬だったかと聞かれると、わずか1〜2万円を『結構な額』と答えていました。21歳の金銭感覚と言えばそうなのかもしれませんが‥‥」
いずれのケースも、怪しいとは思いながらも断るとどんな仕返しが待っているかわからないからと、成り行き任せで詐欺に加担したようだ。21歳男性の事件については、警察に待ち構えられて未遂に終わったことが幸いし、執行猶予が付いている。
21年版「犯罪白書」では、受け子・出し子の摘発率が46.4%で、うち54.9%が実刑という。
「中には高齢者が受け子として関与して懲役3年以上を食らったケースもあり、たとえ詐欺の知識が乏しくとも情状酌量が認められにくく、支払うツケは大きくなります」(前出・司法記者)
結局、怪しいバイトには近づかないに越したことはないのだ。