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Posted on 2020年08月01日 17:54

藤井聡太「8冠」までの1000日計画(3)因果巡る中学生棋士の歴史

2020年08月01日 17:54

 さて、時計の針を20年に戻そう。

 この記事が出ている時点で、豊島将之名人に渡辺二冠が挑戦する今期の名人戦が行われている(第4局が7月27─28日)。史上4人目のA級全勝という圧倒的強さを誇った渡辺二冠がチャレンジャーとなり、今最も強い2人がガチンコで対決するファン垂涎のカードである。

 ここで、藤井棋聖の初タイトル奪取の相手にもなった、この渡辺二冠に触れておきたい。

 将棋史上5人しかいない「中学生棋士」だった1人なのだ。

 過去の中学生棋士は、

加藤一二三(14歳7カ月)/谷川浩司(14歳8カ月)/羽生善治(15歳2カ月)/渡辺明(15歳11カ月)/藤井聡太(14歳2カ月=史上最年少)

 そして巡る因果は糸車、彼らを追えば、将棋の歴史をたどれるのである。

 加藤から89年に名人を奪ったのが谷川。その後、谷川と中原誠の双頭時代を経て、平成の世は「羽生世代」と呼ばれる昭和45年組の黄金時代となる。

「羽生があまりにも強すぎたため、一度も羽生と当たることなく引退した棋士が多かった(挑戦者にならないかぎり、対局できない、の意)」

 とまで言われた。

 終わりなき王朝が続く中、ついに羽生を脅かす存在として現れたのが渡辺だ。特に08年の竜王戦は語りぐさで、将棋界に一度も出現しなかった「七番勝負3連敗4連勝」を達成。「名勝負」や「神回」、そして「時代」は彼らが作ってきた。

 だから藤井棋聖初戴冠の相手が渡辺二冠だった時、将棋ファンは「歴史は繰り返す」と嘆息したのだった。

 竜王戦と棋王戦にめっぽう強い渡辺二冠だが、名人挑戦は今回が初めて。ぜひとも獲りたいタイトルだ。徳川家康が家元として俸禄を与えた初代大橋宗桂から数えて、名人位の歴史は400年あるが、26人しか戴冠していない。それゆえ「将棋の神に選ばれた者だけが名人になれる」と、まことしやかに語られる、由緒ある肩書なのである。

 先の8つのタイトルホルダーを見るとわかるように、現在の将棋界は、豊島竜王名人、永瀬二冠、渡辺二冠の3人が抜きん出て強い。

 しかし、羽生時代をようやく終わらせかけた「彼らの栄華時代」に、早くも現れた次世代が藤井棋聖なのだ。

 そう簡単には譲れない。新棋聖との対戦成績が4勝無敗の豊島竜王名人は、藤井ファンからゲームのイメージで「ボスキャラ」と呼ばれ始めた。今後も進撃に立ちふさがるのか。ともかく、将棋界は時代の大きな変わり目を迎えている。

 将棋ファンの藤井棋聖に寄せる最大のロマンは、国民栄誉賞受賞者である「羽生九段の記録を抜けるのか」にある。

 特に25歳5カ月で7冠を達成した「全冠同時制覇」「タイトル獲得99期」のふたつは誰にも破られない、王貞治の本塁打記録級のものだ。しかし、前人未到の8冠同時制覇も、藤井棋聖ならば夢物語に終わらないだろう。

 同業者である棋士たちすら、畏敬と期待の声を上げる。次回からは、そうした評価、解説を含め、もっと深く藤井の強さに迫りたい。

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