スポーツ

プロ野球「師弟の絆」裏物語 最終回 新垣渚と秋山幸二の「捲土重来」(1)

「生き残るためには野球観を根底から変えよ」

“速球派”を捨てさせたリハビリ中の非情通告

 混パの中で、主力選手が軒並み抜けたソフトバンクは、シーズン終盤厳しい試合展開を続けている。そうした中、救世主として復活を果たしたのが、ベテラン新垣渚だった。かつて速球派で鳴らした本格派は肘の故障を経て、技巧派へと変身。そこには、みずからの経験談をもとに新垣の意識を変えさせた、秋山幸二監督のアドバイスがあったのだ。

瀬戸際で“結果”を出した

 ソフトバンクが苦境に立たされた9月7日、3位争いがかかった対ロッテ戦の初戦、先発のマウンドには、68日ぶりの一軍マウンドとなる新垣渚(32)が立っていた。

 前日の対西武戦では、エースの大隣賢司(27)が満を持しての起用で敗戦した直後だっただけに、チームの今後の行方を左右しかねない状況だった。新垣は、「ここで負けたら、ズルズルと行く場面。ローテーションの穴をあけた身とすれば、恩返しする番だ」

 気持ちを引き締めてのマウンドとなった新垣は、7回を2安打1失点の好投で今季6勝目をあげたのだ。

「自分の持っているものを出してくれたら、いい結果となって表れるものよ。ぽっと出の若い連中と違うんだから‥‥」

 監督の秋山幸二は新垣の好投に目を細めた。秋山は自身の現役時代から、「球の威力、スライダーのキレは同世代の連中と比べて数段上」と新垣の素材のよさを評価していた。

 だが、プロの世界では、素材のよさがそのまま勝ち星につながるものではない。昨シーズンまでチームメイトだった同世代の杉内俊哉(31)、和田毅(31)の両左腕のピッチングの前では、際立つ存在感を示すことができなかった。

 ところが昨年、その主力2人の活躍で8年ぶりの日本一を果たすと、そのオフは激変が襲った。

 和田がメジャーのオリオールズに移籍。杉内はFAで巨人に移り、ホールトン(33)までが巨人に移籍したのだ。昨シーズン、3人合わせて43勝分の勝ち星が一気に減ってしまう計算だった。

 だが、秋山は泰然自若の構えだった。

「いなくなった人間のことを言ってもしかたない。大隣、岩いわ嵜さき翔(22)、大場翔太(27)の若手の3人に加えて、勝利の味を知っているベテランが必ず復活してくれると思うよ」

 秋山には今シーズン、新垣の復活について勝算があったのだろう。

 秋山の期待が如実に表れていたのは、開幕カードでの新垣の起用だった。第3戦、しかも地元でのオリックス戦でいきなり先発させたのだ。

 その大胆とも言える采配に、近鉄、横浜で優勝経験を持つ権藤博(現中日投手コーチ)の言葉を私は思い出した。

「開幕カードの第3戦目がいちばん神経を使う。開幕2戦を連敗したら、連敗ストッパーとして使わなければいけないし、一勝一敗だったら勝ち越しで遠征に出たい。連勝で来れば、弾み役だ。周りからは単純に(先発を)振り分けているように見えるだろうが、チームに勢いをつけるために大事な試合ですよ」

 だが秋山は、あえてその大事な場面で新垣を起用したのだ。ソフトバンクの高山郁夫投手コーチも、「オープン戦で結果(5試合で防御率0・57)を出してくれていたけど、大きな賭けであったことは確かだった」

 と漏らしたほどだった。

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