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プロ野球「師弟の絆」裏物語 第2回 松坂大輔と東尾修の「一子相伝」(4)31歳になって気づいた部分

 かつて甲子園の優勝投手でプロ入りした選手の多くは大成しないまま終わっている例が多い。そんな中、松坂がすんなりとスタートを切れたのは、東尾の徹底した気遣いがあったことはこれまでにも述べてきた。

 実は、東尾が松坂入団当初に「格別の配慮」をしたのは、監督としての持論があったからにほかならない。

「その選手が成功するかしないかは最初が大切。それで半分以上が決まってくる。松坂は考えるに値する存在だから」

 そこで、東尾はデビューの場にもこだわった。球団にすれば、鳴り物入りで獲得した新人のお披露目は、自分のホームグラウンドでやりたいというのが本音である。最近では楽天の田中将大、日ハムの斎藤佑樹らもデビュー戦は本拠地の球場だった。当然、松坂もデビュー戦で登板するのは、西武ドームだと誰もが考えて当然だろう。ところが、東尾はこれに猛反対。あくまで、「デビュー戦で勝てる」ゲームを選んで登板させようとした。

 まず、開幕カードを外し、本拠地のプレッシャーのかかる場面を避けている。登板に当たっては、対戦カードの初戦を避けて相手投手のランクが落ちる3戦目を選んだのもその理由だった。しかも、ドーム球場でのゲームの中止は考えにくい。とりわけ東京ドームは傾斜がなだらかで、上手投げの投手向きであることまで考慮している。

 球団の営業部には、「何で人様の庭でデビュー戦を‥‥」という思いも強いため、監督にはいろいろな形での圧力がかかった。しかし、東尾は最後まで松坂のデビューにはこだわり、「ともかく最初だけはうまく滑り出させてあげたい」

 と突っぱねた。結果的にその年、松坂は16勝をあげて新人王になったが、順調なプロ野球のスタートを切った背景には、東尾による松坂への“愛情”が込められていたのだ。

 あれから14年がたった。すでに31歳となった松坂には、若さに任せて力任せで投げられていた面影はない。だからこそ、若い頃にはまったく気にしていなかった監督の言葉が、故障して力だけでは投げられなくなったことで、脳裏によみがえったのだろう。

「40歳になっても投げられることを考えて手術することに踏み切りました」

 と熟考の末、手術を決心した時の心境を松坂はこう語っている。思い返せば東尾監督は、松坂がプロ入りした時から、「まっすぐが走っている間に新しい球を覚えておけ」

 と遊び半分でいろんな球種を投げさせていた。そうした経験も、術後のリハビリを兼ねた練習での新投法への移行にも大いに役立ったと言えよう。

「当時はあまり気にしなかったことが、いろいろあった時、よみがえってくるものですよね」

 と当時を振り返る松坂。

 監督として周囲から「過保護」と言われるほどの東尾の入団直後の配慮が、31歳になった松坂にようやくわかってきたようである。来季以降のメジャー契約に向けて、さまざまな試練が待ち受ける中、“新しい松坂”として復活した時こそ、“最初の上司”である東尾の真意がわかるのかもしれない。

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