スポーツ

プロ野球「師弟の絆」裏物語 第3回 谷繁元信と権藤博の「一意奮闘」(4)

12年ぶりに復活した“師弟関係”

 谷繁と権藤は、師弟という関係だけにとどまらない。プライベートでも、権藤が横浜の監督を辞めたあとも、年末には谷繁一家とハワイで過ごすなど、その後も公私ともに本音のつきあいを続けていた。

「不思議な縁だなと思いましたよ。勝つ楽しみを初めて教えてくれた人と、この年齢になって一緒にやれるんですからね。『何をビクビクしている。命まで取られやせんよ。行けッ』と言うところなんて、昔と変わっていませんよ」

 12年ぶりにユニホームに袖を通した権藤と谷繁は今度は中日で、再び一緒に日本一を目指すことになった。

 横浜時代には監督でありながら、投手交代や選手への指示はみずから行っていた権藤は、今度は投手コーチとしてマウンドに立っている。

「マウンドに行って言うことは一つ。腕を思い切って振って打者に向かっていけ、ということ。あとの細かい配球は谷繁に任せています。自分よりもこのチームで長い間、ユニホームを着ている人間のほうが、感性がありますから」

 そして、こう続けた。

「日本一のキャッチャーに私は何を言えますか」

 そんな権藤を、谷繁はどう見ているのか。交流戦後に権藤は高木監督と6度の救援に失敗した岩瀬仁紀について、激論を戦わせたことがあった。高木監督いわく、

「岩瀬がまたも炎上した。またもということは前もやられたということ。使い方を考えてくれ」

 だが、その時、権藤はこう言い返した。

「マスコミの前で選手の悪口を言わないでほしい。選手はいちばん応えるものです。結果については、私の責任ですから、申し訳ありません」

 権藤のスタンスは、監督であっても投手コーチであっても終始一貫している。

 98年の優勝の時、守護神の佐々木に対して、「残り20試合を切ったら無理をしてもらうから」と言って、セーブのつかない場面での登板を要求したことがあった。

 今の中日の状況は、優勝当時の横浜と重なるのだ。

 これまでシフトをまったくイジろうとしなかった権藤にしてみれば、勝負の段階になったら動くのでは、と古い時代からの部下である谷繁は考えている。そのために吉見が言うように「144試合を考えたリード」を行い、決戦の場に備えているのだった。

 権藤は、優勝を争っている場面では、みずからベンチからサインを出していた。谷繁もそれに従っていた。

 そんな背景があったからこそ、キャンプでも谷繁にこう声をかけていた。

「いつでも言ってくれ。サインをベンチから出す用意があるからな」

 その時の谷繁の答えは、

「いえ、結構です」

 権藤はちょっぴり寂しそうだったが、

「アイツに断られてしまったよ。ベンチで見ていても、なるほどなと思うリードをやってくれているから」

 と言うほど、谷繁の成長を認めざるをえなかったのだ。

「こっちは衰えるばかりだけど、彼はますます円熟の域に達している」

 12年ぶりに再会した師弟が挑む日本一。今からクライマックスシリーズが楽しみになる。

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