今大会初日の第2試合で国学院栃木と対戦する香川県の英明。香川県といえば高校野球では古豪・高松商が春夏ともに各2回の優勝を誇っているが、その高松商以外に1校、甲子園で優勝したチームがある。1995年第67回大会での観音寺中央(現・観音寺総合)だ。しかも初出場での初優勝という快挙のおまけつきであった。
この年の大会は約2カ月前に発生した阪神・淡路大震災の影響で一時は開催が危ぶまれたほどだった。そんな大会で初めて甲子園にやってきた観音寺中央は震災の爪痕がまだ色濃く残っていた球児の聖地を舞台に全力で躍動、試合を重ねるごとにヒーローが次々と生まれ、爽やかな新風を吹かせたのである。
1回戦の藤蔭(大分)戦は2‐2のまま8回に突入する重苦しい展開となった。その8回表に途中出場の2年生・大森聖也がバックスクリーンに決勝アーチを叩き込み、みごと4‐2で初戦を突破したのだった。続く2回戦の相手は優勝候補の東海大相模(神奈川)。強敵を前に観音寺中央はエース・久保尚志(中央大‐鷲宮製作所)が109球の熱投でわずか4安打しか許さず完封。しかも6‐0の完勝だった。この勝利で勢いに乗ったチームは準々決勝で北陸の名門・星稜(石川)相手に終盤追いつめられながらも先発・久保をリリーフした土井裕介の好救援で6‐4の逃げ切り勝利。終始先手を取った試合運びが生きた結果でもあった。そして準決勝の関西(岡山)との一戦では、初戦で決勝アーチを放った2年生の大森が再び見せ場を作る。背番号15、171センチ69キロの小柄な控え選手がなんと大会史上13人目となる1試合2本塁打(1大会3本塁打も史上7人目の快挙)をマークしたのだ。この大森の活躍などでチームは13‐6で圧勝。初出場ながら決勝戦へと進出したのである。
迎えた決勝戦の相手は伝統校の銚子商(千葉)。この試合巧者との一戦で観音寺中央は驚くべき先制攻撃を見せる。試合開始を告げたサイレンの余韻がかすかに残る中、先頭バッターの土井が3球目を左中間へと運ぶ三塁打。相手の機先を制すると1アウト後から三連打が飛び出し2点を先取。さらに6回表にも2点を加えると、守ってはエースの久保が相手打線を散発の7安打に抑えた。結局、古豪をまったく寄せ付けない戦いぶりで4‐0の完勝劇を演じみごとに初出場初優勝。香川県勢としては1960年の高松商以来、実に35年ぶりの優勝であった。
なお、観音寺中央はこの年の夏も春夏連覇を狙って甲子園へ乗り込んできたが、2回戦で日大藤沢(神奈川)の前に延長11回のすえ3‐4でサヨナラ負け。以後の甲子園出場はなく、春の選抜においては無敗のままである。
(高校野球評論家・上杉純也)=敬称略=