芸能

吉永小百合の「過去・現在・未来」(11)強さと烈しさは表現できない

 例えば、「霧の子午線」。岩下志麻と「二大女優の共演」と銘打っているけれど、私は当時あなたに、付き人がいる前で、「岩下志麻と逆の役がよかったわね」と言ったのを憶えています。岩下志麻は新聞社の女デスクで、若いツバメがいる。あなたはただしょぼんとしておとなしいだけの役。それがつまらないと思ったからでした。

「北の桜守」もそう。戦争、艱難辛苦、奮闘努力、有為転変、波乱万丈‥‥そんな道具立てに乗っかっているだけではないですか。ただただ耐えて耐えて、悲しく哀れ。そればかりで押してくるんですから。決まりきった「顔」が好きなんですね。そういう役をやすやすと受け入れるあなたを、複雑な思いで見ていました。

 そういえば、ある時、あなたは〈私に強さ、烈(はげ)しさは表現できないんです。無理なんです〉と書いたファックスを送ってきましたよね。あなたは女優、表現者でしょ。そういうことを言ったらおしまいじゃないですか。魔術師のように、いろんなものを出してくれないといけないのに。

 いえ、全てがいけないと言いたいわけではないのです。

「天国の駅」で死刑囚を演じましたね。あれはとてもよかった。「女ざかり」もそう。新聞社の女論説委員の役で、母親らしからぬ奔放なキャラクターでした。愛人役の津川雅彦と、海辺のホテルで密会する。のびのびとしていて、これで小百合は甦ったなと思い、拍手していたんです。あぁ、もう大丈夫だ、と。ところがそれからまた逆戻り‥‥というか、むしろ急降下してしまったな、と感じています。

 こんなこともありましたね。「青春の門」の一件です。

 浦山桐郎監督が初めて日活以外で作品を撮ることになり、あなたに出演のオファーを出しました。その時、あなたはちょうど、結婚のドタバタ、両親との相克もあり、ずいぶんホッソリとした体だった。だからあなたは浦山監督に「自分の柄ではありません。これは倍賞美津子さんのような人が合う」と、断りに行きましたね。炭鉱の町の女の役は確かに、あの時のあなたには合わない。

 ところが監督に「なんとか頼むよ」と請われて出演することになったら、案の定、似合いませんでした。原作を読んで、自分の役ではない、という分析ができるのは真っ当なことだと思います。でもやはり、受けてしまった以上は、もっとたくましさがないといけないのだと、私は思うのです。

中平まみ(作家)

カテゴリー: 芸能   タグ: , , , , ,   この投稿のパーマリンク

SPECIAL

アサ芸チョイス:

    医者のはなしがよくわかる“診察室のツボ”<マイクロスリ―プ>意識はあっても脳は強制終了の状態!?

    338173

    昼間に居眠りをしてしまう─。もしかしたら「マイクロスリープ」かもしれない。これは日中、覚醒している時に数秒間眠ってしまう現象だ。瞬間的な睡眠のため、自身に眠ったという感覚はないが、その瞬間の脳波は覚醒時とは異なり、睡眠に入っている状態である…

    カテゴリー: 社会|タグ: , , , , |

    医者のはなしがよくわかる“診察室のツボ”<紫外線対策>目の角膜にダメージ 白内障の危険も!?

    337752

    日差しにも初夏の気配を感じるこれからの季節は「紫外線」に注意が必要だ。紫外線は4月から強まり、7月にピークを迎える。野外イベントなど外出する機会も増える時期でもあるので、万全の対策を心がけたい。中年以上の男性は「日焼けした肌こそ男らしさの象…

    カテゴリー: 社会|タグ: , , , , , |

    医者のはなしがよくわかる“診察室のツボ”<四十肩・五十肩>吊り革をつかむ時に肩が上がらない‥‥

    337241

    最近、肩が上がらない─。もしかしたら「四十肩・五十肩」かもしれない。これは肩の関節痛である肩関節周囲炎で、肩を高く上げたり水平に保つことが困難になる。40代で発症すれば「四十肩」、50代で発症すれば「五十肩」と年齢によって呼び名が変わるだけ…

    カテゴリー: 社会|タグ: , , |

注目キーワード

人気記事

1
【戦慄秘話】「山一抗争」をめぐる記事で梅宮辰夫が激怒説教「こんなの、殺されちゃうよ!」
2
巨人で埋もれる「3軍落ち」浅野翔吾と阿部監督と合わない秋広優人の先行き
3
「島田紳助の登場」が確定的に!7月開始「ダウンタウンチャンネル」の中身
4
前世の記憶を持つ少年「僕は神風特攻隊員だった」検証番組に抱いた違和感
5
前田日明「しくじり先生」で語らなかった「最大のしくじり」南アフリカ先住民事件