スポーツ
Posted on 2019年11月11日 17:58

井上尚弥VSドネアは、なぜ「100年に一度の名勝負」になったのか?

2019年11月11日 17:58

「ドネア選手、めちゃくちゃ強かったです。その前に皆さん、平日木曜日に『さいたまスーパーアリーナ』に集まってくれて本当にありがとうございました」

 WBSSバンタム決勝を激闘の末に制した井上尚弥(26)は、観客に向けて感謝を口にした。11月7日木曜、都心から外れた「さいたまスーパーアリーナ」は2万2000人の大観衆で埋め尽くされた。近年のボクシング興行では破格の動員であり、土日の開催であれば、マイク・タイソン以来の東京ドームも夢ではなかったと思われる。

 対戦相手のノニト・ドネア(フィリピン)は、井上にとって雲の上の存在であった。36歳という年齢を感じさせないタフネスぶりは、まさしく「レジェンド」にふさわしく、これまで1Rか2Rで相手をKOさせた「モンスター」にとっても、畏怖すべき相手であった。

「オッズは頭から外して戦う。ボクシングはいつ、どこで何があるかわからないスポーツ」

 前日の軽量で井上が口にしたように、4倍ほどのオッズ差がありながら、ドネアに対しての警戒心は慎重すぎた。そして試合が始まると、緊迫感が会場を包んだ。2Rにドネアの左フックが井上の右目をとらえると、生涯初のカットで鮮血にまみれる。さらに何度となく鼻血も吹きこぼれ、劣勢が見て取れた。

 局面が明らかに変わったのは11R、井上の強烈な左ボディがドネアの右みぞおちをとらえ、呼吸困難から「あわや10カウント!」のダウンに追い込んだ時だ。実は井上は2Rに食らった打撃で「眼窩底骨折」と「鼻骨骨折」であったことが2日後に判明。ドネアの姿が二重に見える状態のまま残り10Rを戦い、そして薄氷の勝利を記録する。

 劣勢の気配があった9R、そして最終の12Rに井上は、観客やドネアに向かって鼓舞するようなパフォーマンスを見せた。スタイリッシュな井上に珍しいアクションであったが、間違いなく2万人以上の観客の心をひとつにした瞬間であった。勝者も敗者も、異次元レベルの技術の攻防を見せ、最後まで1発のパンチでどちらが勝つかわからないスリリングな空気に、観客は酔いしれた。

 この日、さいたまスーパーアリーナをあとにする観客は、ボクシング知識の大小にかかわらず、歴史的な一戦への賛美を口にした。そして、井上尚弥が真のファイターになった瞬間を見届けた─おそらく、向こう数十年は訪れない「神がかった36分」であったのだ。

(石田伸也)

カテゴリー:
タグ:
関連記事
SPECIAL
  • アサ芸チョイス

  • アサ芸チョイス
    社会
    2026年01月14日 07:30

    昨年あたりから平成レトロブームを追い風に、空前の「シール」ブームが続いている。かつては子供向け文具の定番だったシールだが、今や「大人が本気で集めるコレクターズアイテム」として存在感を放つ。1980年代から90年代を思わせる配色やモチーフ、ぷ...

    記事全文を読む→
    カテゴリー:
    タグ:
    社会
    2026年01月19日 07:30

    鉄道などの公共交通機関で通勤する人が、乗車の際に使っている定期券。きっぷを毎回買うよりは当然ながらお得になっているのだが、合法的にもっと安く購入する方法があるのをご存じだろうか。それが「分割定期券」だ。これはA駅からC駅の通勤区間の定期券を...

    記事全文を読む→
    カテゴリー:
    タグ:
    社会
    2026年01月22日 07:30

    今年も確定申告の季節がやってきた。「面倒だけど、去年と同じやり方で済ませればいい」と考える人は少なくないだろう。しかし、令和7年分(2025年分)の確定申告は、従来の感覚では対応しきれないものになっている。昨年からの税制の見直しにより、内容...

    記事全文を読む→
    カテゴリー:
    タグ:
    注目キーワード

    人気記事

    1. 1
    2. 2
    3. 3
    4. 4
    5. 5
    6. 6
    7. 7
    8. 8
    9. 9
    10. 10
    最新号 / アサヒ芸能関連リンク
    アサヒ芸能カバー画像
    週刊アサヒ芸能
    2026/1/27発売
    ■550円(税込)
    アーカイブ
    アサ芸プラス twitterへリンク