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記事全文を読む→「まさか」づくしの新井カープ「ここだけの舞台裏話」(3)/「日本一へのシナリオ」は大雑把なほどいいというのはなぜか
昨年6月。FA市場にほとんど興味を示さなかったカープ球団が、日本球界に戻ることを表明していた秋山翔吾を獲得するというニュースが、日本中のプロ野球ファンを驚かせた。「秋山がカープに?」──。
プロ野球のチームにはいろいろな見え方があるが、私はここを起点にして、カープの今日の流れができているような気がしてならない。あの時、秋山に真っ先に電話を入れたのは、侍ジャパンで共に戦った菊池涼介だった。「一緒にやろうよ」。秋山は言った。「野球がチームスポーツである限り、考え方が似ている人と一緒にやりたい」。
今季のカープは「菊池(K)+野間峻祥(N)+秋山(A)」のK・N・Aトリオが野手の幹になっているように見える。このトリオを上手に操っているのが、菊池の兄貴分と言える新井貴浩(監督)である。彼らに共通している思いは「個々の力を磨き、士気を高め、チームプレーに徹する」というシンプルな考え方である。各チームの力が拮抗している日本のプロ野球では、皆の「戦う気持ち」というか、チーム内に流れる空気(モチベーション)が、ペナントレースの行方を決めると言っても過言ではない。
もちろんK・N・Aトリオのような幹だけで、野球はできない。そこには大小の枝、それに青々とした葉っぱ(若手)も必要になる。野手では西川龍馬、坂倉将吾、上本崇司…などがカープになくてはならない大きな主枝になっている。
投手では、先発の大瀬良大地、九里亜蓮、森下暢仁、床田寛樹…など。中継ぎ・抑えでは、矢崎拓也、島内颯太郎、N・ターリー、栗林良吏(やや出遅れ)などがチームを支えている。今季はブルペンに流れる空気のようなものが、昨年までとは違うのだ。
新井監督は、そういう空気をマネージすることに優れている。選手と同じ目線でガッツポーズはするし、ベンチから身を乗り出して大声を張り上げる。そして降板した投手のところに自ら足を運び、声をかける。2軍に降格させる選手とは目を合わせて、その意味をしっかりと伝える。
つまり「兵を動かすは、将の心胸から出る言葉」なのである。今、カープのほとんどの選手が、新井監督と心が繋がっているように見える。
ただ、正直に書くと、新井監督は「日本一へ向けてのシナリオ」を他人に説明するような形で、具体的に描いているわけではない。それはむしろ、アバウトなほどいいと思っている。なぜならその糸口は常に、目の前の現実の中にあるからである。ただひたすら実直に「攻める姿勢」を続けていれば、必ずそこにチャンスが訪れる。それがシナリオである。
広島というのは、人類初の被爆という、信じられない逆境から立ち上がってきた街である。そこで生まれ育った新井監督もまた、逆境に強い。そのせいで、広島人(カープファン)の心の中には「カープ日本一のシナリオ」がそれぞれの思いで描かれている。それが広島という街なのである。「逆境の美学─新井カープ“まさか”の日本一へ!」(南々社)は、叶うも叶わぬも、そこまでの夢を描いたガイド本(エンターテイメント)である。
(迫勝則)
1946年、広島市生まれ。作家。山口大学経済学部卒。2001年、マツダ(株)退社後、広島国際学院大学現代社会学部長(教授)、同学校法人理事。14年間、広島テレビ、中国放送でコメンテーターを務める。現在も執筆、講演などを続けている。主な著書に「広島にカープはいらないのか」「森下に惚れる」(いずれも南々社)、「前田の美学」「黒田博樹 1球の重み」(いずれも宝島社)、「主砲論」(徳間書店)、「マツダ最強論」(溪水社)など。
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