エンタメ

「やっぱり映画っていいなあ」 ートラッシュ!ー

──トラッシュ!-この街が輝く日まで-──

●ストーリー リオデジャネイロ郊外でゴミ拾いをして生活している3人の少年が、ある日、ゴミ山の中で財布を拾う。その財布には重大な秘密が隠されていた。●監督/ステイーヴン・ダルドリー 出演/ルーニー・マーラほか 配給会社/東宝東和 ●1月9日よりTOHOシネマズほか全国公開。

 子供が主役の映画というと、たいてい文化庁ご推薦的な健全映画になることが多い。いわゆる“オトナが考えたあるべき子供キャラ”というやつだ。結果、子供向けだか子供だましだかよくわからない、煮えきらない凡作となるのがお定まりだ。実際、子供なんていうのは、大人が思うよりはるかに狡猾で、ずぶとくて、生意気だったりする。だから本来、子供キャラはそういう悪ガキにしたほうが映画的にはおさまりがいい。少年野球映画の最高峰「がんばれ!ベアーズ」(76年・米)などは、口は悪い、酒は飲む、と今の映画人が見たら仰天するほどの悪たれぞろいだ。が、だからこそ大人も感動する傑作と称されている。

「トラッシュ!-この街が輝く日まで-」は、そうした「子供だましじゃない子供映画」のよさがわかる大人にこそ見てほしい佳作である。ブラジルのゴミ拾いスラムで生きる筋金入りの悪童3人が、腐敗しきった警察や「本当のワル」である大人たちの追跡をかいくぐって一泡吹かせるスリリングな冒険物語だ。

 唯一の収入源であるゴミあさりの最中、偶然拾ったちっぽけな財布。それには彼らのみならず街の運命を変えるほどの秘密があった。

 さびれた炭鉱町でバレエダンサーを目指す少年の物語「リトル・ダンサー」(00年・イギリス)など、子供の扱いには定評あるスティーヴン・ダルドリー監督。彼は、この話のキモが3人のキャラ造形にあることを理解していたのだろう。まず、原作の児童文学では未設定の舞台の街を「リオスラム街のゴミ集積所」と定めた。そのうえで「シティ・オブ・ゴッド」(02年、ブラジル)で、少年ギャングの殺し合いを描いた、フェルナンド・メイレレス監督を制作チームに迎え、本作に同レベルのリアリティを加えたのだ。結果、スラム住民と警察側の一触即発の感情的対立や、におい立つような生々しい生活風景など、それだけでも興味を引く見せ場となっている。

 何しろオーディションで選ばれた主役の少年役は実際にスラムで生まれ育った。彼らが暮らすゴミ山は、2年前に閉鎖されたばかりの本物の廃棄物処理場。さらに「湖畔のスラム」との設定を実現するため、わざわざ隣地に穴を掘って水を張り、魚まで放して湖をこしらえたというから半端じゃない。映画一本にそこまでやるか!

 そんなわけで、本物の悪ガキが圧倒的権力と戦うこの物語は、持たざる者が強者に一撃を食らわす痛快作として、この上ない臨場感とともに楽しめる娯楽作となった。むろん、根底に流れるのは少年らしいまっすぐさ、純粋な心の尊さを賛美する真っ当な主張。中学生くらいの子供とともに鑑賞できたら最高だろう。

◆次回は秋本鉄次氏です

◆プロフィール 前田有一(まえだ・ゆういち) 1972年生まれ、東京都出身。映画評論家。宅建主任者、消費者問題などを経て現在の仕事につく。自身のサイトである「超映画批評」( http://maeda-y.com )では幅広いジャンルの作品を解説している。

カテゴリー: エンタメ   タグ: , , , ,   この投稿のパーマリンク

SPECIAL

アサ芸チョイス:

    ゲームのアイテムが現実になった!? 疲労と戦うガチなビジネスマンの救世主「バイオエリクサーV3」とは?

    Sponsored

    「働き方改革」という言葉もだいぶ浸透してきた昨今だが、人手不足は一向に解消されないのが現状だ。若手をはじめ現役世代のビジネスパーソンの疲労は溜まる一方。事実、「日本の疲労状況」に関する全国10万人規模の調査では、2017年に37.4%だった…

    カテゴリー: 特集|タグ: , , , |

    藤井聡太の年間獲得賞金「1憶8000万円」は安すぎる?チェス世界チャンピオンと比べると…

    日本将棋連盟が2月5日、2023年の年間獲得賞金・対局料上位10棋士を発表。藤井聡太八冠が1億8634万円を獲得し、2年連続で1位となった。2位は渡辺明九段の4562万円、3位は永瀬拓矢九段の3509万円だった。史上最年少で前人未到の八大タ…

    カテゴリー: エンタメ|タグ: , , , |

    因縁の「王将戦」でひふみんと羽生善治の仇を取った藤井聡太の清々しい偉業

    藤井聡太八冠が東京都立川市で行われた「第73期ALSOK杯王将戦七番勝負」第4局を制し、4連勝で王将戦3連覇を果たした。これで藤井王将はプロ棋士になってから出場したタイトル戦の無敗神話を更新。大山康晴十五世名人が1963年から1966年に残…

    カテゴリー: エンタメ|タグ: , , , , , |

注目キーワード

人気記事

1
「メジャーでは通用しない」藤浪晋太郎に日本ハム・新庄剛志監督「獲得に虎視眈々」
2
不調の阪神タイガースにのしかかる「4人のFA選手」移籍流出問題!大山悠輔が「関西の水が合わない」
3
2軍暮らしに急展開!楽天・田中将大⇔中日・ビシエド「電撃トレード再燃」の舞台裏
4
新庄監督の「狙い」はココに!1軍昇格の日本ハム・清宮幸太郎は「巨人・オコエ瑠偉」になれるか
5
【鉄道】新型車両導入に「嫌な予感しかしない」東武野田線が冷遇される「不穏な未来」