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新日本プロレスVS全日本プロレス<仁義なき50年闘争史>「闘魂VS王道の頂上対決実現! その時、猪木は…」

 新日本プロレスVS全日本プロレスの対抗戦が行われた、2000年10月9日の東京ドームは超満員札止め6万4000人を動員した。

 メインイベントは佐々木健介VS川田利明。IWGPヘビー級王者であり、夏の「G1クライマックス」に優勝した健介がまさに新日本のトップなら、川田は渕と2人だけの全日本の看板を背負っての出陣。95年10.9東京ドームのUWFインターナショナルとの対抗戦の武藤敬司VS髙田延彦と同じく、いきなり頂上決戦で雌雄を決するというのが新日本のやり方だ。

 アントニオ猪木の燃える闘魂の新日本、ジャイアント馬場の王道プロレスの全日本‥‥「闘魂VS王道」として注目された大一番は、20世紀最後の東京ドームにおけるプロレス興行にふさわしいものとなった。

 新日本VS全日本の対抗戦は3試合。まず全日最強外国人スティーブ・ウイリアムスが新日本最強外国人スコット・ノートンを粉砕。セミファイナルでは蝶野正洋&怪覆面ミスターT(正体は後藤達俊)のT2000が渕正信&越中詩郎を下した。越中は新日本所属だが、出身は全日本であり、馬場の付け人でもあった。対抗戦がスタートするにあたって、全日本への協力を申し出たのである。

 そしてメイン‥‥健介VS川田がノンタイトル戦として行われたのは、健介と川田を同一線上に置いたということだ。

 99年1.4東京ドームで橋本真也が小川直也に事実上のKO負けを喫して崩壊した〝新日本最強〟を復活させるべく負けられない健介と、この試合に全日本の生き残りをかける川田は駆け引きなしの真っ向勝負。

 場外エスケープ、場外乱闘が1度もなく、自分が攻撃する以外はロープを使う攻防さえもなし。まさに新日本のストロングスタイルと全日本の王道スタイルの激突は、川田がジャンピング・ハイキックで勝利。

 試合後、新日本と全日本に分かれていたファンが、ノーサイドで両雄に拍手を送ったのが印象的だった。

 その後も10月21日の全日本・名古屋で川田&渕&越中がT2000の蝶野&天山広吉&ヒロ斎藤に勝ち、12月14日の新日本・大阪では「G1タッグ・リーグ戦」優勝チームの永田裕志&飯塚高史と川田&渕のタッグ頂上決戦が実現して30分時間切れになるなど対抗戦はヒートアップ。年明け01年1.4東京ドームは、川田に敗れた健介が返上したIWGPヘビー級王座の決定トーナメントが開催された。

 トーナメントには仕切り直しを期す健介、健介に勝った川田、蝶野、天山、小島、永田の6人がエントリー。決定戦は1回戦シードで天山に勝った川田と小島、蝶野を下して勝ち上がった健介が再戦。健介がノーザンライト・ボムで雪辱した上でベルト奪回に成功して、星を五分に戻した。

 この東京ドームで注目すべきは、健介と川田の王座決定戦の前のセミファイナルで長州力VS橋本が唐突に組まれたことだ。

 橋本は99年1.4東京ドームの小川戦後、新日本の対応にも不信感を抱いて半年間欠場。同年6月にようやく戦列復帰したものの、00年4月7日の小川との引退を賭けた大一番に敗れてしまった。その後、藤波辰爾社長の説得によって健介VS川田の頂上決戦が行われた10.9東京ドームで藤波との一騎打ちでカムバックしたが、その直後に新団体ZERO-ONEの旗揚げをぶち上げた。

 実はZERO-ONEは、新日本の本隊に居場所がなくなった橋本のために藤波が団体内独立の形で用意したものだったが、橋本は新日本からの完全独立を宣言して、新日本の方針を無視するように、全日本から分かれたプロレスリング・ノアとの戦いをアピール。この事態に藤波は11月23日に「彼を自由にしてやるのが最善策」として橋本の解雇を発表したのだった。

 解雇した橋本と、98年1月4日の東京ドームで引退後、00年7月30日の横浜アリーナで「一夜限り」として大仁田厚との電流爆破マッチを敢行した長州が一騎打ちを行うことになったのは、アントニオ猪木の強権発動によるものだった。

 全日本の力を借りることを快く思っておらず、全日本の馬場元子オーナーにも不信感を抱いていた猪木は、10.9東京ドームで健介が川田に敗れたことで、永島勝司取締役企画宣伝部長に「お前は全日本を使っているつもりかもしれないが、庇を貸して母屋を取られないように気をつけろ。ここで〝新日本プロレス、ここに在り!〟を見せつけておかないと、全日本の協力がないと何もできなくなるぞ」と、長州VS橋本の一騎打ちをねじ込んだのだ。

 猪木にとっては、すでに引退した長州、解雇した橋本が新日本の切り札だったのだ。だが、勝手な行動に出た橋本を許せない長州、現場監督の長州に以前から不満を募らせていた橋本の感情がぶつかり合って試合は成立せず、藤波社長が「我々は殺し合いをやってるんじゃない!」とストップ。東京ドームはブーイングに包まれた。

小佐野景浩(おさの・かげひろ)元「週刊ゴング編集長」として数多くの団体・選手を取材・執筆。テレビなどコメンテーターとしても活躍。著書に「プロレス秘史」(徳間書店)がある。

写真・山内猛

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