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江戸のメディア王「蔦屋重三郎」の秘された正体〈遊廓で才能開花〉「吉原細見」の目玉は序文ではなく迫力倍増の「見開き」だった

 江戸のメディア王「蔦屋重三郎」を描く大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」。物語の舞台は吉原遊廓、蔦屋重三郎の生地と伝えられるホームタウンである。岡場所や宿場町の私娼窟に客を奪われ、作中で蔦重は失地回復のために奔走中だが、この点にこそ将来メディア王としての才能を開花させるきっかけが潜んでいたのだ。

 蔦屋重三郎は1750年(寛延3年)に丸山重助と津与との間に生まれた。その場所が、江戸幕府公認の遊廓である吉原だった。7歳の時に、両親の離婚により、喜多川氏に養子に出され、その喜多川氏が経営する茶屋「蔦屋」で幼少期を過ごした。大河ドラマでは珍しく艶っぽいシーンがあるのも、そのためである。

 出版人として名を馳せる契機となったのも遊廓だった。まさに、第2回で描かれた「吉原細見」をめぐるエピソードだ。この吉原細見は現代風にいえば、風俗情報誌で、吉原のガイドブックである。

「もっとも蔦重がこれを作ったわけではなく、彼が活躍する100年近く前、1680年代から存在しています。蔦重の時代は鱗形屋という地本問屋(大衆向けの本の制作・販売を請け負った業者)が、ほぼ独占していた。それを蔦重が大胆なリニューアルを提案したとされ、内容をアレンジしてグレードの高いものにしたのです。これは、蔦重がのちに手がける出版ビジネスにも見られる傾向なのですが、実は彼のオリジナルというのは本当に少ない」

 そう語るのは、近く「たわけ本屋一代記 蔦屋重三郎」(日刊現代)を刊行する、蔦重に関する著書が多い作家の増田晶文氏だ。オリジネーターではないが、そこに絶妙な味付けを加えて、世間の耳目を集める。端からエディターやコーディネーターとしての能力がズバ抜けていたということなのだろう。

 その細見におけるアレンジ面で、最たる例が大河ドラマでも描かれた序文の執筆者だろう。のちにエレキテルを発明する平賀源内に依頼したのだ。当時、源内は歯磨き粉である「漱石香」のキャッチコピーを考案したとして市中の有名人だった。前出・増田氏が言う。

「有名人に序文を書いてもらうというのはなきにしもあらずでしたが、慣例化されたものではありませんでした。そこに当時、革新的な平賀源内の序文が載ったのですから注目を集めたのも当然でした」

 作中でも描かれたように、源内は「男一筋」の男色家として知られており、それだけでもかなり斬新な執筆依頼だったというわけだ。

「細見を買うのは、ほぼ100%吉原に興味がある男だと思いますが、源内の序文が載ることで、吉原にあまり関心・興味がない人でも手に取ってみようと思わせる仕掛けを作ったということです」(前出・増田氏)

 吉原細見の大胆なリニューアルは序文だけではなかった。蔦重はホームタウンという地の利を存分に生かし、今までにはない遊女たちの詳細なデータを掲載。さらに、吉原の地図を現在の雑誌でいうところの「見開き」レイアウトで見せるなど、ヴィジュアル面も一新させ、読者に今までにない新鮮さを与えたのだ。

 もっとも、蔦重が平賀源内をどう口説き落として序文を書いてもらったのか。また、吉原細見の元締めであった鱗形屋から、いかにしてアレンジ権を獲得したのか。そうした仔細はわかってはいない。というのも、蔦重が書き残した日記や手紙などは残っておらず、人となりを示す史料が少ないのだ。しかし、吉原細見は蔦重のリニューアルによって大ヒットし、蔦重版細見は圧倒的人気を誇った。

「版権を持っていた鱗形屋の懐に入っていけたというのは、やはり蔦重の背景に吉原があるということが大きいと思います。そもそも蔦重はファンダメンタル(基礎的な要因)を利用するのに、実に長けているのです」(前出・増田氏)

 確かに、蔦重は時代さえも味方にしている。当時は幕府の老中・田沼意次が大いに権勢をふるった頃で、商業中心の重商主義に舵を切っていた。庶民の間には昭和のバブル時代のような世相が広がっており、その「空気」を読み取り、みずからのバックグラウンドである吉原に象徴される文化的素養を大いに利用したのである。

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