良い悪いにかかわらず、なんでもかんでもすぐにSNSにアップされる昨今。スポーツを観戦するにしても、かつてのように「金を払ってるんだから、何をやっても許される」という「お客様は神様」的時代は、とうの昔に終わりを告げている。
それでも、野球ではまだ「そこまで言うか」という、度を越えたヤジが飛ぶことがある。ターゲットにされやすいのは、日本語がよくわからない外国人選手だ。
2010年8月18日、観客のヤジをきっかけに選手と観客の大ゲンカに発展したのが、巨人のマーク・クルーン投手をめぐる騒動だった。
ナゴヤドームで行われた巨人×中日戦。試合前の練習中、三塁側スタンド前でファンにサイン中だったクルーンが、男性の観客から突然、唾を吐きかけられたとして激高。数分間の激しい口論の末、ブチ切れたクルーンがネットを挟んで男性に詰め寄る、という「大乱闘」に発展したのである。
男性ファンは60代から70代で、巨人と中日どちらのファンなのかはわからないものの、「唾吐き」が事実ならば、ファン云々の前に、人間としての常識を疑われる。
クルーンは2004年に横浜ベイスターズに入団し、2008年に巨人に移籍。162キロのストレートとフォーク、カットボールを武器にするも、荒れ球投手のため死球や暴投、ワンバウンドが多く、ピンチの場面では頭に血が上ることがしばしば。一部スポーツ紙では「クルーン劇場」と揶揄されたこともあった。
とはいえこの時、クルーンがヤジを飛ばされ「唾を吐かれた」と主張したのは試合中ではなく、練習中のことだ。
最終的には球団関係者が間に入り、両者の事情聴取が行われたが、問題の男性は「ヤジは飛ばしたが、唾を吐いたんじゃない。入れ歯が外れただけだ」と主張。言った言わない、やったやらない、といった不毛なやり取りが続き、場内は騒然とした雰囲気に包まれた。
阪神ファンの過激なヤジや挑発に「逆に燃えるね」「オレは甲子園の阪神戦が大好きだ。あんなにエキサイティングな球場はないよ」と豪語していたクルーンだが、さすがに「唾吐き」には堪忍袋の緒が切れた。後味の悪さだけを残す騒動だった。
(山川敦司)