なんとも後味の悪い「伝統の一戦」となってしまった。
東京ドームで行われた、5月7日の巨人×阪神戦。一昨日、昨日と2連敗中の巨人が6対4のリードで迎えた7回表、セットアッパーとしてマウンドに立った巨人・高梨雄平が投じた144キロの直球が、あろうことか、阪神・中野拓夢の背中を直撃したのだ。
その場でうつ伏せに倒れ込み、苦悶の表情を隠さない中野に、3塁側の阪神ファンからは大ブーイングの嵐が。その刹那、藤川球児監督は鬼気迫る「無表情」でベンチを飛び出した。さすがに「マズイ」と感じたのか、慌ててベンチを出た阿部慎之助監督は投手の交代を告げるとともに、今にも爆発しそうな藤川監督に遠目から「ごめん、ごめん」と謝罪したが、3塁側スタンドの騒然たる空気は、しばらく収まらなかった。
それもそのはずである。高梨から死球を受けた中野は前日の試合で、1塁を守る巨人の主砲・岡本和真とベース上で激突。そのままベンチに下がった岡本は左ヒジ靭帯損傷で全治3カ月と診断され、前半戦出場が絶望となっていた。このような因縁浅からぬ背景があっただけに、多くの阪神ファンが「今回の高梨の投球は中野への報復死球だろうな」と勘繰っても不思議ではなかった。
しかも高梨には一昨年、阪神のリードオフマンで鳴らす近本光司に死球を与え、右肋骨骨折で戦線離脱に追い込んだ一件をはじめ、阪神ベンチや阪神ファンに「あらぬ疑念」を生じさせかねない「前科」が、少なからずあったのだ。今回の死球騒動について、全国紙スポーツ担当記者は次のように指摘している。
「中野に対する高梨の死球が意図的なものだったとは思いませんし、思いたくもありません。しかし『昨日の今日』の試合ですから、いわゆる『ノーコン』を長所兼短所とする高梨は、もう少し慎重に攻める必要がありました。お役御免でベンチに戻った高梨がニタニタしていたのも、大いに気になります。そもそも中野と岡本はともに2023年のWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)の日本代表メンバー。今回の一件が、切磋琢磨を続けてきた2人の『仲の良さ』に水を差すことにならなければいいのですが…」
ちなみに、中野は試合後の取材に表情を歪めながら「しゃべれません。聞かないでください。ちょっとマジできついから」とコメントしている。
(石森巌)