チームの窮地を救う緊急登板だったのに、マウンドに向かう際、ファンの「あ~あ」という溜め息を聞かされるとは…。
5月7日のパ・リーグ首位攻防戦は延長12回ドロー、首位オリックスと2位・日本ハムの痛み分けとなった。日本ハムが勝てば同率首位で並ぶ一戦だった。
球場がざわついたのは12回裏、2-2で迎えたオリックスの最後の攻撃だった。このイニングからマウンドに上がった日本ハムの9番手・生田目翼が先頭打者を一塁ゴロに打ち取り、ベースカバーに入った際に右足首を捻ってしまった。
生田目は一塁ベース付近にしゃがみ込み、「やっちまった~」といった感じで苦笑いを浮かべる。ベンチから飛び出した新庄剛志監督は生田目の状態を確かめた後、内野陣に指示を出した。マスクをしていたため何を言ったのかはわからなかったが、途中から三塁の守備に入っていた奈良間大己がボールを受け取った。そして三塁ベース付近から、捕手に向かってキャッチボールを開始。「野手の投手登板があるのではないか」ということで、球場が一気に盛り上がったのだ。
奈良間の投球練習開始から1分も経たないうちに、投手の玉井大翔がアナウンスされ、ほどなくしてゲームセットを迎えた。日本ハムは出場登録された投手10人全てを使い切っていた。
試合後、奈良間は「玉井に何かあったら」と「有事の登板」を新庄監督に告げられたと語っている。ただ、チーム関係者によれば、
「そこまで深刻な事態にはなっていなかった」
という。続けて事情を明かすには、
「玉井は生田目が12回のマウンドに上がった時点で『今日は出番ナシ』となり、肩を作っていませんでした。玉井に登板準備をさせるための、時間稼ぎみたいなもの」
新庄監督も「(野手で)彼がいちばんコントロールがいいので」と「投手・奈良間」を本気で考えていたような口ぶりだったが…。
「奈良間は学生時代、投手として試合出場した経歴はありません。新庄監督のジョークですよ」(前出・チーム関係者)
先の先まで考えておくのがプロ野球監督の仕事だ。投手経験ゼロの奈良間の起用をその場で閃いたとすれば、それも新庄マジックか。両チームとも決め手に欠く一戦ではあったが、最後の最後で新庄監督が魅せてくれた。そして緊急登板にもかかわらず、12回裏をゼロに抑えた玉井は、もっと評価されてもいいのでは。
(飯山満/スポーツライター)